問題フレーミングとは、「どの問題を、どう定義して解くか」を意図的に選択・設計する思考プロセスです。デザイン思考の定義(Define)フェーズの核心をなす概念であり、フレームの選び方が解決策の方向性を根本的に決定します。
なぜ問題フレーミングが重要か
デザイン思考の実践において、最も犯しやすい誤りのひとつは「問題を正しく定義する前に解決策を考え始める」ことです。
古典的な例として、エレベーターの待ち時間に関する問題があります。「エレベーターの待ち時間を短くするにはどうするか」という問いを立てると、解決策は「エレベーターを増設する」「制御システムを最適化する」という高コストな方向に向かいます。しかし「エレベーター待ちに感じる不満をなくすにはどうするか」と問いを変えると、「各フロアに鏡を設置する(待ち時間の認知を変える)」という低コストで効果的な解決策が生まれます。
フレームを変えることで、まったく異なる解決策の空間が開きます。問題フレーミングはこの「フレームの選択を意識的・意図的に行う」思考技術です。
フレームの3つの次元
問題フレーミングには、3つの次元からのアプローチがあります。
1. 問題の境界を変える(拡大・縮小)
問題の定義を広げることで、より根本的な原因にアクセスできます。一方、狭めることで行動可能な具体的問題を特定できます。
境界を広げる例:「ユーザーがアプリのXボタンを押せない」→「ユーザーがアプリで目的のアクションを完了できない」→「ユーザーがサービスで達成したいことを達成できない」
境界を縮める例:「顧客満足度が低い」→「初回来店顧客の再来店率が低い」→「初回来店後3日以内のフォローアップが存在しない」
2. 問題の視点を変える(ステークホルダーシフト)
誰の視点から問題を見るかによって、問題の定義は変わります。
- 顧客の視点:「なぜ私のニーズが満たされないのか」
- スタッフの視点:「なぜ正しいサービスを提供できないのか」
- 組織の視点:「なぜこのプロセスがうまく機能しないのか」
- 社会の視点:「なぜこの問題が繰り返し発生するのか」
視点を変えることで、同じ「事実」の異なる解釈と、それぞれに対応した異なる解決策が見えてきます。
3. 問題の時間軸を変える(予防・対処・改善)
現在発生している問題の「対処」だけでなく、問題の「予防(なぜ起きているのかの上流)」や、問題の「構造的解決(再発しない仕組み)」という時間軸でフレームを変えることができます。
実務でのフレーミング手法
How Might We(HMW)によるリフレーミング
How Might Weは問題フレーミングの最も実践的なツールです。「どうすれば〜できるか?」という問いの形が、問題を「解ける課題」として再定義します。
HMWを複数の粒度で書き比べる実践が有効です。「どうすれば待ち時間を短くできるか」「どうすれば待ち時間を快適にできるか」「どうすれば来院自体を最小化できるか」という3つのHMWは、それぞれ異なる解決策空間を開きます。チームで複数のHMWを書き、どれを解くかを選ぶプロセス自体が問題フレーミングの実践です。
「なぜ?」の連鎖と「どうすれば?」の連鎖
5 Whysで問題の上流(根本原因)に向かって問いを深める一方、HMWで解決策の空間を広げる方向に問いを展開する。この両方向の問いの連鎖が、問題フレーミングの基本的な思考作業です。
ポイント・オブ・ビュー(POV)文との連携
POV文は「誰の・どんなニーズを解くか」を定義します。POV文が完成すると、問題フレーミングの文脈(ユーザー・ニーズ・インサイト)が揃い、HMWへの変換が自然に進みます。
フレーミングの罠
解決策に引きずられたフレーミング
最も頻出する罠は「すでに持っている解決策に有利なフレームで問題を定義する」ことです。「デジタル化することを前提に、どう問題を定義するか」という逆算的なフレーミングは、他の解決可能性を最初から排除します。
問いを立てる前に「このフレームは、特定の解決策に有利になっていないか?」を確認します。
問題の過度な単純化
複雑な社会・組織の問題を「シンプルな問い」に変換しすぎると、本質的な複雑性が失われます。厄介な問題(Wicked Problem)は、単純化されたフレームでは解けません。問題の複雑性を保ちながら、行動可能な切り口を選ぶバランスが求められます。
最初のフレームへの固執
問題定義は一度決めたら固定するものではありません。プロトタイプ・テストの結果から「問題の定義が違った」と分かった場合、フレームを更新することが重要です。デザイン思考のプロセスは反復的(Iterative)であり、問題定義の更新はプロセスの失敗ではなく学習です。
設計哲学としての問題フレーミング
「どの問いを選ぶかが、どの答えに到達できるかを決定する」——これが問題フレーミングの根幹にある認識論です。
デザイン研究者のNigel Crossは、優れたデザイナーと普通のデザイナーの差は「問題を解く能力」よりも「問題を見つけ・定義する能力」にあることを複数の研究で明らかにしています。問題を解くのは難しい。でも問題を正しく定義できれば、解決策は比較的自然に見えてくる。
デザイン思考が「問題定義フェーズ」を独立したフェーズとして設定している理由はここにあります。プロセスの飾りではなく、プロセスの核心です。
参考文献
- Cross, Nigel, Design Thinking: Understanding How Designers Think and Work, Berg Publishers, 2011
- Dorst, Kees, Frame Innovation: Create New Thinking by Design, MIT Press, 2015
- Rowe, Peter G., Design Thinking, MIT Press, 1987
- Stanford d.school, Bootcamp Bootleg, Institute of Design at Stanford, 2018
- Brown, Tim, Change by Design, HarperBusiness, 2009