問題定義 中級

アフィニティ図(KJ法)— 大量の定性データを構造化する情報整理メソッド

ユーザーインタビューや観察で集めた膨大な定性データを、パターンとインサイトに変換するアフィニティ図の実践手順。作業の流れ、ファシリテーションのコツ、よくある失敗を網羅的に解説する。

所要時間 2〜4時間
参加人数 3〜8名
準備物 付箋(大量)、ホワイトボードまたは広い壁面、マーカー(複数色)、タイマー

アフィニティ図(Affinity Diagram)は、大量の定性データを、意味のあるパターンとインサイトに構造化する情報整理の手法です。文化人類学者の川喜田二郎が1960年代に考案した「KJ法」をデザイン思考文脈に適応させたもので、共感フェーズで集まったインタビュー記録・観察メモを定義フェーズに変換する橋渡し的な役割を担います。

混乱に構造を与える

ユーザーリサーチを10人以上に行うと、収集した発言・観察・感情メモは数百枚の付箋や数十ページのノートになります。この量を前にしたとき、ワークショップのエネルギーが一番落ちます。「何が重要か分からない」「どこから始めればいいか分からない」。

アフィニティ図は、個別の観察を「グループ」→「テーマ」→「インサイト」という3層の抽象化によって整理します。しかし本当の価値は「整理したデータ」ではありません。

付箋を動かしながら「この2つは似ているか?」「この違いは何を意味するか?」と会話するプロセスそのものが、インサイト生成の核心です。データの整理が目的ではなく、会話の素材として使う。この認識がないと、見た目が整ったけれど何も言わないアフィニティ図ができます。

ステップ

Step 1:データの付箋化(個人作業、30〜45分)

インタビュー・観察で収集したデータを付箋に転記します。1枚の付箋に1つの観察・発言・行動のみを書きます。この時点ではカテゴリ分けは不要です。

書き方のルール:

  • 1観察=1付箋(複数の情報を1枚に書かない)
  • 行動・発言は「解釈なし」で書く(「〜と言っていた」「〜していた」)
  • 感情や推測は別の色の付箋で区別する
  • 誰の発言・観察かをコードで記録する(「I3:インタビュー対象者3番」など)

全員がデータを付箋化したら、壁またはホワイトボードに全付箋を無作為に貼ります。

Step 2:沈黙でグループを作る(全員作業、30〜60分)

重要:このステップは会話なしで行います。

全員が付箋を読みながら「似ている付箋」を近くに寄せていきます。会話なしで行うことで、各自の判断基準が可視化され、後の議論の素材が生まれます。

グループを作る際のルール:

  • 「何となく近い気がする」という直感で動かして良い
  • 1枚だけのグループがあっても良い
  • 同じ付箋を複数人が違う場所に移動させようとしたときは、そのまま何度か繰り返す(後で議論する)
  • 3〜5分経過ごとに全体を見渡して、付箋を動かし続ける

この沈黙の作業が終わると、壁には10〜20個程度のグループができています。

Step 3:グループに仮タイトルをつける(議論、30〜45分)

沈黙の作業が落ち着いてきたら、声を出した議論に移ります。各グループを見ながら「このグループは何を共通して示しているか?」を議論し、仮のタイトルを付箋に書いてグループの上部に貼ります。

タイトルの書き方:

  • 名詞ではなく「洞察の文」で書く(「待機時間」ではなく「待機中の不確実性がストレスを生む」)
  • グループ内の全付箋を包含するタイトルにする(一部だけを説明するタイトルは不適切)
  • 「〜の傾向がある」「〜という状況」など動的な表現を使う

Step 4:グループのグループを作る(上位テーマ化)

仮タイトルがついたグループを見渡し、「関連するグループを束ねた上位グループ」を作ります。3〜5個の上位グループができると全体の構造が見えてきます。

上位グループのタイトルは、より抽象度の高い洞察の文で書きます。「情報へのアクセス困難」「コントロール感の喪失」「期待と現実のギャップ」のような、設計に影響するインサイトレベルの表現が理想です。

Step 5:インサイトの言語化

上位グループのタイトルを元に、設計に使えるインサイト文を書きます。インサイト文は「[パターン/傾向]が観察される。これは[なぜなら/にもかかわらず/という状況において]〜を示している」という構造で書くと、問題定義に直結しやすくなります。

インサイト文の例:「ユーザーは待機中に複数回スタッフに声をかけようとして、途中で諦めているパターンが観察される。これは『質問することで迷惑をかける』という遠慮が、情報へのアクセスを自己制限させていることを示している」

ファシリテーションのコツ

沈黙の時間を守る

Step 2の沈黙のグループ化は、多くのファシリテーターが「議論しながらやりましょう」と変更したがります。しかし沈黙で行うことには明確な意図があります。会話なしで行うと、「声の大きい人の分類が採用される」バイアスを排除でき、各自の分類の違いが後の議論を豊かにします。

「カテゴリ」ではなく「洞察」でタイトルをつける

最も頻出する失敗は「顧客の年齢」「機能の種類」「使用シーン」など、カテゴリでグループを作ってしまうことです。アフィニティ図の目的はデータの分類ではなく、パターンから意味を引き出すことです。タイトルが設計への示唆を含む「洞察の文」になっているかを常に確認します。

全員が付箋を動かせる状況を作る

議論の主導権が1〜2名に偏ると、グループの視点が狭まります。「今、他のグループはこのテーマをどう見るか?」という問いを挟んで、全員の参加を促します。

よくある失敗と対策

失敗1:付箋の粒度が大きすぎる
「ユーザーは情報不足で困っていた」という1枚の付箋は、複数の観察が混在しています。付箋化の段階で「1観察1付箋」を徹底します。後からでは分解が難しい。

失敗2:グループが多すぎる/少なすぎる
最終的なグループ数の目安は「データ量の平方根」程度。100枚の付箋なら10グループ前後が整理しやすい。グループが30以上になったら上位グループ化を先に進め、3以下になったら分解を試みます。

失敗3:インサイトではなく要件を書く
「〜機能が必要」「〜を改善すべき」という設計要件をインサイト文に書いてしまうケース。インサイトは「何が起きているか・なぜ起きているか」の観察で、「何をすべきか」は次のHMWフェーズで考えます。

アフィニティ図の次のステップ

抽出したインサイトを元にPOV文を作成し、さらにHow Might Weの問いに変換することで、創造フェーズへの橋渡しが完成します。アフィニティ図のインサイトから直接HMWを導くことも可能ですが、POV文を経由することで「誰のどんな問題を解くか」の焦点が明確になります。


参考文献

  • 川喜田二郎, 『発想法——創造性開発のために』, 中央公論社, 1967
  • Beyer, Hugh & Holtzblatt, Karen, Contextual Design: Defining Customer-Centered Systems, Morgan Kaufmann, 1998
  • Stanford d.school, Bootcamp Bootleg, Institute of Design at Stanford, 2018
  • IDEO.org, The Field Guide to Human-Centered Design, IDEO.org, 2015
  • Kolko, Jon, Exposing the Magic of Design: A Practitioner’s Guide to the Methods and Theory of Synthesis, Oxford University Press, 2011