問題定義 中級

コンセプトカードソーティング

ユーザーがコンセプト・情報・機能をどのように分類・命名するかを観察するIA研究手法。デザインリサーチでは製品コンセプトの評価・優先度付けにも応用される。オープン/クローズド/ハイブリッドの3形式がある。

所要時間 60-120分(参加者1人あたり30-60分)
参加人数 5-30人(定量的知見には15人以上推奨)
準備物 カード(物理またはデジタル)、記録シート、OptimalSort等のデジタルツール(任意)

カードソーティング(Card Sorting)は、ユーザーがコンテンツや概念をどのように分類し、命名するかを観察するリサーチ手法だ。もともと情報アーキテクチャ(IA)の領域で、ウェブサイトのナビゲーション構造を設計するために発展した。デザインリサーチへの応用では、製品コンセプトの評価・優先度付け・ユーザーのメンタルモデルの把握に活用される。

手法の概要

参加者は、コンセプト・機能・情報アイテムが書かれた一枚一枚のカードを手にし、「似ていると思うもの同士」をグループにまとめ、そのグループに名前をつける。研究者はその分類パターンと命名を観察・記録することで、ユーザーのメンタルモデル——すなわち「ユーザーが世界をどのように認識し、カテゴリ化しているか」——を把握する。

重要なのは、カードソーティングが「ユーザーが好きな設計を直接聞く」手法ではないことだ。ユーザーは多くの場合、自分のメンタルモデルを言語化できない。しかし「これとこれは似ている気がする」という直感的な行動の中に、そのモデルが現れる。カードソーティングは、この言語化されにくい認知構造を行動から引き出す手法だ。

3つの形式

オープンカードソーティング(Open Card Sorting)

参加者がグループの数・名前・構成をすべて自由に決める形式。カテゴリの命名にも制約がない。

用途はユーザーのメンタルモデルを白紙の状態から探索すること。新規プロダクトの情報構造設計や、既存のカテゴリ体系を根本から見直す段階に適している。50〜100枚のカードが扱える上限の目安で、それ以上になると参加者の負荷が高くなりすぎる。

オープン形式の強みは、研究者が想定していなかったカテゴリが出現する点だ。「そのような分類のされ方は想定していなかった」という発見が、既存のUI設計の根本的な問題を示すことがある。

クローズドカードソーティング(Closed Card Sorting)

カテゴリ(グループの名前)を研究者があらかじめ定義し、参加者は各カードをそのカテゴリのいずれかに分類する形式。

用途は既存の情報構造の検証や、設計候補の比較評価。「このメニュー構造でユーザーは直感的にナビゲートできるか」という問いに対して、定量的な根拠を集める段階に適している。

クローズド形式の強みは、分析の比較可能性と定量化にある。参加者間の分類一致率を算出でき、「このカードが最も正しいカテゴリに分類される割合」という指標が得られる。

ハイブリッドカードソーティング(Hybrid Card Sorting)

クローズド形式のようにあらかじめカテゴリを提示しつつ、参加者が必要に応じて新しいカテゴリを追加できる形式。

オープンとクローズドの中間的な知見を得ることができる。既存の構造を維持しながら、ユーザーが感じている「この構造では収まらない」要素を把握したい段階に適している。

実施の手順

ステップ1:カードの設計

カードの内容は研究目的によって異なる。IAリサーチでは「機能名・ページ名・コンテンツ項目」が書かれる。コンセプト評価では「アイデアの簡潔な説明文」が書かれる。

設計上の原則は1枚1コンセプト。複数の意味を含む記述は分類を混乱させる。カードの文章は10〜20字程度で、参加者が読んですぐ理解できる平易な言葉を使う。専門用語は避けるか、一般的な言葉に言い換える。

物理カードを使う場合は、番号を振る(分析時の記録のため)。デジタルツールを使う場合は、OptimalSort、Maze、UserZoom 等が一般的だ。

ステップ2:参加者のリクルート

代表的なユーザーセグメントからリクルートする。定性的な洞察(メンタルモデルの深い理解)であれば5〜8人から有意な知見が得られる。定量的な信頼性が必要なら15〜30人が推奨される。

インタビューと同様に、研究したいユーザー像と参加者が一致していることが重要だ。ターゲット外のユーザーのメンタルモデルは、設計の参考にならない。

ステップ3:セッションの実施

参加者にはまず手法の概要を説明する。「正解はない。あなたの自然な感覚でグループを作ってください」というインストラクションが基本だ。評価や批判はしない、という心理的安全性の確保が重要になる。

セッション中は思考発話法(Think Aloud)を促す。「なぜこの2枚を一緒のグループにしたのか」「このカードはどちらに入るか迷いましたか」という問いを適宜挟み、分類の背後にある理由を言語化させる。この発話が、後の分析で最も価値ある定性データになる。

ステップ4:分析

物理カードの場合は各参加者の分類結果を表に記録する。カードAとカードBが同じグループに入った参加者の割合(共起率)を算出し、共起率の高いペアを特定する。

デジタルツールでは樹状図(Dendrogram)や類似度マトリクスが自動生成される。これを参照しながら、ユーザーのメンタルモデルに基づいた情報グループを特定していく。

分類パターンの共通点だけでなく、参加者間の「ばらつき」にも注目することが重要だ。ある2枚のカードを「必ず一緒に」置く参加者と「必ず別々に」置く参加者が混在する場合、そのカードが持つ意味の曖昧さや、ユーザーセグメントの違いを示している可能性がある。

デザインリサーチへの応用

カードソーティングはもともとIA手法として発展したが、デザインリサーチでは製品コンセプトの評価に応用できる。

アイデエーションで生み出された複数のコンセプトをカードに書き出し、ユーザーに分類させる。「新しい」「高価そう」「使いやすそう」「業務向け」「個人向け」といったユーザー自身が付けたグループ名に、設計チームが意図していなかった製品認識が現れることがある。

コンセプトを「今すぐ欲しい / あってもなくても / 必要ない」という3つのカテゴリに分類させるクローズドカードソーティングは、機能の優先度付けの代替手法としても機能する。設計者が「重要」と判断した機能をユーザーが「あってもなくても」カテゴリに入れ続ける場合、その機能のポジショニングに問題がある可能性を示す。

類似手法との違い

親和図法(KJ法)はチームが収集したデータを分類する手法で、チーム内部の思考整理が目的だ。カードソーティングはユーザーが分類する手法で、ユーザーのメンタルモデルの把握が目的という点で異なる。どちらも「分類」という行為を使うが、誰が分類するかによって目的と得られる知見が根本的に異なる。

ワークショップで観察されるパターン

カードソーティングのセッション中、参加者が「これはどちらにも入る」と迷い続けるカードが必ず出現する。この「どちらにも入る」カードは、2つの異なるメンタルモデルの境界領域を表していることが多い。

参加者が迷いながら発する言葉——「これは機能としては◯◯だけど、使うシーンで言えば◯◯」——が、製品の情報構造だけでなく、ユーザーの文脈的な使用パターンを開示する。カードソーティングで最も価値あるデータは、分類の結果ではなく、迷いの瞬間の発話にある。


参考文献

  • Spencer, Donna and Warfel, Todd, “Card sorting: a definitive guide”, Boxes and Arrows, 2004
  • Rosenfeld, Louis, Morville, Peter and Arango, Jorge, Information Architecture: For the Web and Beyond (4th Edition), O’Reilly Media, 2015
  • Nielsen, Jakob, “Card Sorting: How Many Users Do You Need to Test?”, Nielsen Norman Group, 2004

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