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ワークショップ実況:カスタマージャーニー×エンパシーマップで、ユーザーの心を映す

デザイン思考のempathize~define フェーズを同時実施するワークショップ。3時間で30名参加者がカスタマージャーニーを描き、隠れたニーズを可視化するプロセス実況。

所要時間 3時間
参加人数 20-30名
準備物 模造紙・付箋・マーカー・カスタマージャーニーテンプレ・エンパシーマップテンプレ

ユーザーリサーチを集約する一番の課題は、何か。

バラバラに収集した声・観察・データを、どうチームで共通言語に変換するか。その瞬間が、デザイン思考のempathizeから defineへの扉です。

私は月1回のペースで企業ワークショップを実施していますが、ここ数ヶ月で「カスタマージャーニー」と「エンパシーマップ」を同時に描くハイブリッド手法が、参加者の「ユーザー理解の質」を一段階上げることに気づきました。本記事は、実際に先月某メーカーで実施した3時間ワークショップの実況を通じて、このプロセスの泥臭さと、そこから生まれた洞察をお伝えします。

なぜジャーニーとエンパシーを同時に?

従来のワークショップでは、通常こう進みます。

  1. カスタマージャーニーを描く(時系列で、各タッチポイントのアクション・感情を記録)
  2. その後、エンパシーマップを作る(ユーザーが「考えていること」「言っていること」「やっていること」「感じていること」の4象限)

しかし実務では、この2つを分けて実施するとロスが多いことに気づきました。

理由は単純です。ジャーニー描写中に「このタッチポイントでユーザーは何を心の中で思ってたのか?」という問い立てが弱くなります。タイムラインに沿って「起きたこと」を埋めるだけになりやすく、心理層(感情・思考・葛藤)が浅いままになる。

対して、ジャーニーとエンパシーを並行して描くと、各タッチポイントで「ユーザーは外では何をしていたが、内では何を考えていたのか」という見えない層までストーリーが立体的になります。

ワークショップの全体設計

今回のワークショップは、メーカー営業部門の若手~中堅20名 + ファシリテーター である私 + デザイン思考経験者2名のアシスタント。所要時間は3時間。ターゲットは「法人向けセールスの営業プロセスにおける顧客心理」でした。

進め方の枠組み:

09:00-09:15 オープニング + ユーザーペルソナ共有(15分)
09:15-10:00 カスタマージャーニー「起きたこと」層の記述(45分)
10:00-10:45 エンパシーマップの4象限を並行記入(45分)
10:45-11:00 ギャップを見つける(15分)
11:00-11:30 気づきの言語化とグループ発表(30分)

実況:「起きたこと」から「感じたこと」へ

09:15-10:00、壁に大判用紙を貼り出す瞬間

私は、A1用紙2枚を横に繋いだカスタマージャーニーのテンプレを用意していました。横軸は「営業初接触」→「提案打ち合わせ」→「見積提示」→「契約交渉」→「導入」→「運用開始」の6フェーズ。縦軸は「ユーザーのアクション」欄だけ。

20名を4グループに分け、各グループに1ジャーニーを割当てます。指示は簡潔に。

「このフェーズでお客さんは実際に何をしてましたか。メール返すまでに何日待った? 何回会議した?を、具体的に埋めてください。感情は後で。」

ここが重要です。最初のパスでは『見える行動』だけに集中させる。感情は後。

参加者が手を動かしながら、ポストイットにアクション項目を書き始めます。

「お客さんから『提案書を見たい』というメールが来た」 「営業(自分たち)が社内稟議のために、部長への説明資料を作った」 「1週間音沙汰なし。営業側が『どうなった?』と再度連絡」

こういった「地味だけど実際に起きたこと」が、ジャーニーに並ぶと、チーム内で初めて「あ、ここ、こんなに時間かかってたんだ」という気づきが生まれます。

10:00-10:45、エンパシーマップの4象限を同時記入

次に、同じジャーニーの横に、エンパシーマップ用の大判用紙を貼ります。

ここが面白い部分です。ジャーニーの各フェーズごとに、エンパシーマップの4象限を細かく分割したものを用意したのです。

【提案打ち合わせ】
┌─────────────────┬─────────────────┐
│ 考えていること   │ 言っていること   │
│ (THINK)        │ (SAY)          │
├─────────────────┼─────────────────┤
│ やっていること   │ 感じていること   │
│ (DO)           │ (FEEL)        │
└─────────────────┴─────────────────┘

ジャーニーに「営業が見積を提示した」と書いてあるなら、その隣の同じタイムポイントのエンパシーマップには:

THINK: 「この見積、ウチの予算で通るかな…」 SAY: 「ありがとうございます。一度内部で検討させていただきます」 DO: 社内の稟議ルートに見積書を回している FEEL: 漠然とした不安(他社との比較も気になる)

こう記入していくと、タッチポイントごとの「表と裏」がいっきに立体的になります。

ワークショップ中、あるグループから質問が出ました。

「営業の再度の『どうなった?』という連絡の時、顧客は実は『急かされてる感』を感じていたんですか?」

私は「そうかもしれない。じゃあここの FEEL に『プレッシャー感』を足してみようか」と提案しました。

すると、そのグループ全体が「あ、そっか。ウチらが『進捗確認の連絡』だと思ってた行動が、顧客には『急かし』に映ってたかも」という気づきに到達したのです。

これが、分けて実施していたら起こりにくい。同時に見ることで、初めてギャップが見える。

「欲しい」と「欲しくない」のギャップを可視化する

10:45-11:00、ギャップを見つける

ここが define フェーズへの接続です。

ジャーニーとエンパシーマップが完成した4グループに、新しい指示を出します。

「いま、ジャーニー上で『ユーザーがしてほしかったこと』『ユーザーが避けたかったこと』を、黄色いポストイットで書いてください。」

出てくるのは、こういったギャップです。

  • 欲しかった: 「提案書の前に、導入事例を見たかった」
  • 避けたかった: 「複数の部署を巻き込むような意思決定プロセスの複雑さ」
  • 欲しかった: 「営業と対話ではなく、オンラインで何度も確認できるナレッジベース」

これらが「隠れたニーズ」です。顧客インタビューでは直接聞かなかったかもしれない。でも、ジャーニーとエンパシーの組み合わせで、チーム全体が同時に気づくことができた。

参加者からの声

最後の発表セッションで、各グループが気づきを述べていきます。印象的だったのは、営業部門の中堅が言った一言。

「いつもは『顧客は何を買ってるか』という機能面ばかり考えてました。でも、この3時間で『顧客は意思決定のプロセスそのものにストレスを感じてる』ってことに初めて気づきました。商品じゃなくて、営業体験そのものを変えないとダメかもしれない。」

これが define フェーズの本質です。「何が問題か」を、表面の機能面ではなく、心理層で捉え直すこと。

ファシリテーションの勘所

私が毎月のワークショップで大切にしているポイントを、いくつか記しておきます。

1. 最初のパスで「見える層」に集中させる 感情を早く入れると、参加者は「正解を探そう」という思考に入り、実際のユーザー行動の観察が浅くなります。「何が起きたか」を先に埋め、その後「なぜか」を重ねる方が、事実ベースの洞察が生まれやすい。

2. エンパシーマップの4象限は「ジャーニーの時間軸と同期させる」 時間がズレると、参加者は「一般的なユーザー心理」を推測で埋めてしまいます。「このタッチポイント、このタイミング」に限定することで、具体性が保証される。

3. ギャップを「黄色で可視化」する ジャーニーとエンパシーが完成した段階では、参加者は疲れ始めています。ここで new insight を引き出すには、色を変えて『見える』という物理的な刺激が有効です。

4. グループ発表で「なぜそう思ったか」を聞く 「こういうギャップを見つけました」という結論より、「ジャーニーのこの部分と、エンパシーのこの部分を見ると、矛盾してますよね」という根拠を述べさせる。プロセスが共有されることで、チーム全体の納得度が変わる。

実践するなら

カスタマージャーニー×エンパシーマップの同時実施は、3時間、4~5名のグループサイズ、事前にユーザー像が決まっていることが前提です。

もし「ユーザーペルソナすら定義されていない」ようなら、このワークショップの前に、別途 empathize フェーズ(インタビューやフィールドワーク)が必要。あくまで「リサーチ後の集約」として機能します。

また、参加者がワークショップ未経験なら、初回は「ジャーニー描写のみ」にしぼり、2回目以降にエンパシーマップを重ねる段階的進め方もあります。

大事なのは、『何が起きたか』から『何を感じたか』への連続性を、チーム全体で体験すること。

その体験が、デザイン思考の真価 — 「データと直感のあいだに橋を架ける」という、最も泥臭く、最も大切な営みなのです。


カテゴリ: tools(ツール・手法) 関連記事: