5 Whys(5回のなぜ)は、問題の表面的な症状ではなく、根本原因を掘り当てるための問いの連鎖技法です。問題定義フェーズで最もシンプルかつ強力なツールのひとつで、「なぜ?」という問いを5回繰り返すことで、思い込みを剥がし、本質的な課題を可視化します。
概要
ワークショップでよく起こるのは、チームが「問題だと思っていること」と「本当の問題」がずれているケースです。たとえば「ユーザーがアプリを使い続けない」という課題に対して、すぐに「UIを改善しよう」という解決策へ飛びつく。しかし実際にやってみると、なぜを掘り下げた先に「そもそも価値提供自体がずれている」という根本原因が見えてくることがよくあります。
5 Whys はもともとトヨタ生産方式の父・大野耐一が製造ラインの問題解決に用いたフレームワークです。デザイン思考では、ユーザーリサーチで得た観察や発言を起点に、インサイトを掘り下げるプロセスとして広く応用されています。
ステップ
Step 1:問題文を書く
ホワイトボードの中央に、観察された問題や行動をひとつ書きます。主語と動詞を含んだ具体的な文にすることが重要です。「アプリの離脱率が高い」ではなく「新規ユーザーの70%が3日以内にアプリを削除する」のように、数値や行動を入れると掘り下げが深まります。
Step 2:最初の「なぜ?」を問う
「なぜそれが起きているのか?」とチームに問い、思いつく理由を全員から引き出します。この段階では多様な視点を収集することが優先で、正解を急ぐ必要はありません。複数の「なぜ」が出てきたら、それぞれの枝を独立して掘り下げます。
Step 3:「なぜ?」を4回繰り返す
最初の答えに対して再び「なぜそうなるのか?」と問います。これを計5回繰り返すことで、原因の連鎖が見えてきます。 5回という数字は目安であり、3回で根本原因に到達する場合もあれば、7回必要な場合もあります。重要なのは「もう答えられない」というレベルまで掘り下げることです。
Step 4:根本原因を特定する
連鎖の末端にある原因が根本原因の候補です。「この原因を解決すれば、連鎖上のすべての問題が解決される」という確認を行います。根本原因はしばしば、組織のプロセス、インセンティブ構造、コミュニケーションのズレといった「システム的な問題」に行き着きます。
Step 5:How Might We へ変換する
特定した根本原因をHow Might We(HMW)の問いに変換することで、問題定義フェーズから創造フェーズへの橋渡しができます。「ユーザーが価値を認識する前に離脱してしまう」という根本原因なら、「どうすれば初日のユーザーに価値を実感してもらえるか?」という問いになります。
実例:飲食店の予約キャンセル問題
あるレストランでの事例を見てみましょう。
問題文: 予約当日のキャンセルが月20件以上発生している
- なぜ?→ キャンセルの連絡をするのが面倒だから
- なぜ?→ 電話しか受付手段がなく、営業時間中しか対応できないから
- なぜ?→ キャンセル受付の仕組みを電話以外に整備したことがないから
- なぜ?→ 「予約はリアルタイムで確認したい」という思い込みがスタッフにあるから
- なぜ?→ 予約管理システムを導入したことがなく、手動管理が前提になっているから
根本原因: 予約管理の業務フローが「リアルタイム手動対応」を前提に設計されており、非同期のキャンセル受付を想定していない。
この例から分かるように、最初に見えている「キャンセルが多い」という症状と、根本原因の間には5ステップの距離があります。UIを改善しても、プロセスを変えなければ問題は解決しません。
ファシリテーションのコツ
チームで問うことの価値
5 Whys は個人で行うより、多様な視点を持つチームで行う方がはるかに質が高くなります。 エンジニア、デザイナー、ビジネス担当者が同じ問いに向き合うと、それぞれの専門知識から異なる「なぜ」が出てきます。この交差点に根本原因が隠れていることが多いです。
「なぜ」の品質を上げる問いかけ
「なぜですか?」という直接的な問いは、反射的な「分からない」を引き出すことがあります。代わりに「何がそうさせているのでしょうか?」「どんな状況がそれを引き起こしていると思いますか?」というプロセスを問う形に変えると、より深い考察が出やすくなります。
仮説と事実を分ける
5 Whys のセッション中に出てくる「なぜ」は、多くが仮説です。付箋の色を変えるなど、「確認済みの事実」と「チームの仮説」を視覚的に区別することで、後から検証すべきポイントが明確になります。
よくある失敗と対策
症状を問題文にしてしまう
「ユーザー満足度が低い」のような曖昧な問題文を起点にすると、「なぜ?」の答えも曖昧になります。問題文は観察された具体的な行動や数値から始めるのが鉄則です。ユーザーインタビューや行動データを参照して、問題文を具体化しましょう。
答えを誘導してしまう
すでに解決策を持っているファシリテーターが「なぜ機能が少ないのだと思いますか?」と誘導的に問うケースがあります。「なぜ」の答えはチームから引き出すものであり、ファシリテーターが用意するものではありません。 オープンな問いを保ち、全員の声を拾う場を作ることが重要です。
「分からない」で止まってしまう
根本原因に近づくにつれ、「なぜそうなっているか分からない」という状況が出てきます。これは根本原因への到達のサインでもあり、次に何を調査すべきかのヒントでもあります。「分からないこと」をホワイトボードに書き出し、リサーチのアジェンダとして扱いましょう。
ポイント
- 問題文を具体化する — 行動・数値・文脈を含んだ文から始める
- チームで掘り下げる — 多様な専門性が「なぜ」の質を上げる
- 仮説と事実を区別する — 後の検証計画に活かす
- 5回は目安 — 根本原因に到達したと思えるまで継続する
- HMWへつなぐ — 根本原因を問いに変換して創造フェーズへ進む
5 Whys で特定した根本原因は、How Might Weに変換して創造フェーズへと持ち込みます。また、ユーザーインタビューの分析時に親和図法(Affinity Diagram)と組み合わせることで、複数のインサイトを体系的に整理できます。
参考文献
- Taiichi Ohno, Toyota Production System: Beyond Large-Scale Production, Productivity Press, 1988
- Stanford d.school, Bootcamp Bootleg, Institute of Design at Stanford, 2011(改訂版2018)
- IDEO.org, The Field Guide to Human-Centered Design, IDEO.org, 2015