ブレインストーミングは「たくさんアイデアを出す」ことを目的とする一方、深さの問題を持ちます。出たアイデアが表面的なバリエーションにとどまり、根底にある発想を展開し切れないまま終わるケースです。
ロータスブロッサム法は、この「広がったが深まらない」問題を構造的に解決するための発散技法です。中心テーマから段階的に連想を展開していくことで、一見無関係に見えるアイデアの連鎖から、新しい組み合わせや方向性が生まれます。
考案の背景
ロータスブロッサム法(英: Lotus Blossom Technique / 日本語名: 蓮花法)は、日本のクローバー経営研究所代表・松村保男(Yasuo Matsumura)が考案した発想技法です。「蓮の花」の形状——中心の蓮に複数の花弁が連なる——をモデルとした命名で、中心から外側へと連想が広がっていく構造を視覚的に表現しています。
Michael Michalko(著書 Thinkertoys, 1991年)などによって国際的に紹介され、クリエイティブ産業やデザイン思考のコミュニティで活用されています。
基本構造:3×3グリッドの入れ子構造
ロータスブロッサムの基本単位は 3×3のグリッド(9マス) です。
中央グリッドの構成:
A | B | C
D | ★ | E
F | G | H
中央の ★ に「中心テーマ」を記入し、周囲の8マス(A〜H)に派生アイデアや関連テーマを記入します。
展開グリッドの構成:
次に、A〜Hのそれぞれを新しい3×3グリッドの中心に置き、同様に8方向に展開します。
全体マップのイメージ:
[A展開] [B展開] [C展開]
[D展開] [中央9] [E展開]
[F展開] [G展開] [H展開]
完全に展開すると、中央9マス+展開グリッド8枚(各8マス)= 合計9+64 = 73のセル が完成します。実際に使う場面では、すべてを埋めることを目的にせず、発展の可能性がある方向に絞って展開します。
手順
Step 1:中心テーマの設定(5分)
中央グリッドの中心マスに、探索するテーマ・課題・コンセプトを記入します。
テーマの粒度が結果に大きく影響します。広すぎるテーマ(「イノベーション」など)では8方向への展開が抽象的になります。具体的すぎるテーマ(「ボタンの色を変える」など)では展開の多様性が出ません。
有効なテーマの例:
- 「オフィスワーカーの午後の集中力低下」(ユーザー課題)
- 「チェックアウトの待ち時間体験」(サービスシナリオ)
- 「廃棄物を出さない製品包装」(デザイン制約)
Step 2:8方向への第一次展開(15〜20分)
中心テーマに対して、連想・要因・解決方向・ユーザー視点・関連要素など、多様な角度から8つの派生を記入します。
この段階での原則:
- 良し悪しの判断は保留する(評価は後で行う)
- 8マスを必ず埋めることを目標にする(詰まったら「逆転」「極端化」「比喩」で乗り越える)
- 類似したアイデアを入れる場合も、言葉を変えて記入する(後で差異が価値を持つことがある)
第一次展開で書いたA〜Hが、次のステップで各グリッドの中心になります。
Step 3:第二次展開(30〜40分)
A〜Hのそれぞれを中心に置いた新しいグリッドを展開します。チームで実施する場合は、一人または二人が一つのグリッドを担当する分業が有効です。
この段階で「A展開チーム」と「E展開チーム」が別々に作業していると、同じ中央テーマから出発しながら異なる文脈で展開が進みます。全体を集めたとき、この「異なる文脈からの展開」が偶発的なつながりを生む素材になります。
Step 4:収束と価値探索(10〜15分)
全展開グリッドを並べ、以下の問いで有望な方向を選択します。
- 意外なつながり:中心グリッドのA(例:「ストレス」)の展開と、C(例:「習慣」)の展開の間に接点はあるか
- 複数グリッドに登場したキーワード:異なる方向の展開で同じ言葉や概念が繰り返し現れる場合、それは根幹的な要素を示している可能性がある
- 意図しなかった組み合わせ:B展開の3番とF展開の6番を組み合わせたら、新しいコンセプトになるか
ブレインストーミングとの違い
| 観点 | ブレインストーミング | ロータスブロッサム |
|---|---|---|
| 構造 | 自由連想・非構造化 | 9マス×入れ子の構造化 |
| 深度 | 広く出しやすいが深まりにくい | 各テーマを強制的に8方向展開 |
| 収束 | 付箋の分類・投票 | グリッドの視覚的パターン探索 |
| 人数 | 少人数〜大人数 | 1〜8名で効果的 |
| 適した課題 | 初期の可能性探索 | テーマが絞られた後の深堀り |
ブレインストーミングが「何でもあり」の発散なら、ロータスブロッサムは「構造の中での発散」です。両手法を組み合わせる場合、ブレインストーミングで広げた後にロータスブロッサムで1〜3のテーマを深堀りするというシーケンスが有効です。
ファシリテーションのポイント
「埋まらない」マスへの対応:
8方向を展開する中で詰まった時、以下の「強制連想のトリガー」が機能します。
- 逆転:そのテーマの反対は何か
- 極端化:そのテーマを10倍にしたら / ゼロにしたら
- 類比:動物に例えたら / 自然現象に例えたら
- 別文脈移植:このテーマが病院の文脈にあったら / 子どものために設計するなら
評価の混入を防ぐ:
展開フェーズ中に「これは現実的じゃない」「予算がない」という声が出やすいです。評価は Step 4 の収束フェーズまで持ち越す——このルールをセッション開始前に全員で確認しておく。
大きな紙 / 広いデジタルキャンバスの確保:
ロータスブロッサムは展開すると9グリッド×9マスの大きなマップになります。物理ワークショップではB0〜B1サイズの紙を壁に貼る形式が作業しやすいです。デジタルでは Miro の「Grid」フレームを活用し、各グリッドを独立したエリアとして設計します。
Miroでの実施設計
Miro上でロータスブロッサムを実施する場合の推奨構成:
- 中央グリッド:3×3のスティッキーノートを手動で配置、または Miro テンプレートを利用
- 展開グリッド:中央グリッドの外側8方向に、同サイズのグリッドを配置
- カラーコーディング:中央グリッドと展開グリッドを異なる色で区別することで、「どのレイヤーにいるか」が視覚的に把握しやすくなる
- タイマー共有:Miro内蔵タイマーまたは別ウィンドウのカウントダウンを全員が確認できる形で設置
参考文献
- Michael Michalko, Thinkertoys: A Handbook of Creative-Thinking Techniques (2nd ed.), Ten Speed Press, 2006(初版1991年)
- Dilip Mukerjea, Surfing the Intellect: Building Intelligences for Performance and Learning, Brainware Press, 2004
- 松村保男(Yasuo Matsumura), クローバー経営研究所, 蓮花法(Lotus Blossom Technique)考案者