ワークショップの終盤、「振り返りをしましょう」と促しても、「よかったです」「勉強になりました」。そんな感想の羅列で終わる。珍しくありません。原因はだいたい一つです。振り返りに構造が与えられていないのです。
ローズ・ソーン・バッド(Rose, Thorn, Bud)は、体験・プロセス・プロジェクトの振り返りを3つの軸で構造化する手法です。「花」のメタファーを使い、成功(Rose:咲いた花)・課題(Thorn:棘)・可能性(Bud:まだ開いていない蕾)に分類します。3軸の設計により、振り返りがネガティブ一辺倒にもポジティブ一辺倒にもならず、次のアクションへの橋渡しができます。
3軸の定義
Rose(ローズ)— うまくいったこと
セッション・プロジェクト・スプリントの中で機能したこと、成功した瞬間、良い影響を生んだ判断や行動を挙げます。表面的な「楽しかった」ではなく、「なぜうまくいったのか」の観察を含めると振り返りの質が上がります。
よくある例: 「午前中のユーザーインタビューは、事前に共通の観察軸を決めていたため、メモが揃いやすかった」。具体的な行動と理由がセットになっているのがポイントです。
Thorn(ソーン)— 困難だったこと・機能しなかったこと
うまくいかなかった点、詰まった箇所、予期しなかった障害を挙げます。批判や責任追及ではありません。「何が起きたか」という観察として書く——ここが分かれ目です。
Thornを安全に出せる場を作れるかどうかは、ファシリテーターにかかっています。「この場での発言は改善のためのデータ」。この合意を先に作っておくと、本音が出てきます。
Bud(バッド)— 可能性の芽・次に試したいこと
今回は試せなかったが可能性を感じたアイデア、次のセッションで改善できそうな点、種として見えてきた新しい方向性を挙げます。
Thornが「終わった問題」の記録だとすれば、Budは「まだ開いていない可能性」の記録です。このBudが、次のイテレーションを推進する燃料になります。
ステップ
Step 1:場のセッティング(5分)
参加者に3軸を説明し、それぞれの付箋の色を割り当てます(例: Rose=赤系、Thorn=緑系、Bud=黄)。「正解はない、観察を書く」という前提を共有します。
個人で書く時間を取ることが重要です。全体発言だと声が大きい人の意見に引っ張られるため、最初は必ず個人の思考時間を設けます。
Step 2:個人記入(5〜10分)
各自が静かに付箋に書きます。1枚の付箋に1つの観察というルールを守ると、後のグルーピングがしやすくなります。量を奨励し、「細かいことでも書いてよい」と伝えます。
Step 3:ボードへの貼り出しと共有(15〜20分)
ひとりずつRose → Thorn → Budの順に付箋を貼りながら一言コメントをします。「これはどういう意味ですか?」という質問を歓迎し、観察を深堀りします。批評や反論はここでは行いません——まず全員の観察を出し切ることが優先です。
Step 4:クラスタリングと優先度付け(5〜10分)
Thorn・Budが多く出た場合、似た内容をグルーピングします。ドット投票(ドット・ボーティング)でチームとして優先する項目を選ぶと、次のアクション設定がしやすくなります。
Step 5:アクション設定(5〜10分)
振り返りが「観察の共有」で終わるか、「次の行動に接続するか」。その分岐点です。Thornから導く改善アクション、Budから導く実験を1〜3件決め、担当者と期限まで割り当てます。ここを飛ばすと、振り返りは「感想会」に戻ります。
使い所
ワークショップ・セッションの締め
半日から1日のデザイン思考ワークショップの最後30分に組み込むと、参加者の学びが言語化され、次回の設計改善につながります。ファシリテーターにとっては「このセッションの何が機能したか」を知る調査にもなります。
デザインスプリントの振り返り
デザインスプリントのDay 5(テスト日)の最後、またはスプリント全体の振り返りに使えます。「テスト結果のインサイト」とは別に、「スプリントというプロセス自体の振り返り」として機能します。
プロトタイプテスト後
ユーザビリティテストやプロトタイプテストの直後にチームで行うと、次のイテレーションで改善すべき点(Thorn)と試すべきアイデア(Bud)が明確になります。
プロジェクトのマイルストーン振り返り
月次・四半期のプロジェクト振り返りに使うと、アジャイルなチームのレトロスペクティブとして機能します。感情ラインとプロセス改善を同時に扱えるため、チームのコンディション確認と次フェーズの設計が1セッションで完結します。
ファシリテーションのコツ
Thornを先に出しきる
実際の進行ではRose → Thorn → Budの順序を「守りすぎる必要はない」ケースもあります。特に困難なプロジェクトの後では、Thornを先に安全に出し切ってから、RoseとBudに移る方が参加者の心理的安全が確保されます。ネガティブな感情を「あとで言える」と思うと人は話しにくくなります。
Budをリフレーミングのツールとして使う
ThornとBudは一対一で対応させることができます。「次回はこのThornをどうBudにできるか?」という問いを立てることで、課題が次のイテレーションのアイデアに変換されます。このリフレーミングが「振り返りが次の前進につながる」構造を作ります。
時間が短い場合は付箋なしで口頭で進める
会議の最後の10分でもRose・Thorn・Budを3分ずつ口頭で共有するだけで機能します。付箋を貼る物理的な操作は「構造を明示し、発言を等価に扱う」という目的のためにあります。時間が限られている場合は口頭でも十分です。
よくある失敗と対策
BudがThornの言い換えになる
「進捗報告が遅れた(Thorn)→ 進捗報告をちゃんとやる(Bud)」という組み合わせは、BudがThornの単純な否定にすぎません。Budは「まだ見えていない可能性」であるべきです。「もし非同期で進捗を共有するツールを実験するとしたら(Bud)」のように、新しい試みの形にするよう促します。
Roseが出ない
困難なプロジェクトの後やチームのコンディションが低い時、参加者がRoseを書けないことがあります。この場合、ファシリテーターが「小さな成功」を先に例示することが有効です。「今日Thornが出たということ自体が成功だ」という枠組みもRoseになりえます。
振り返りが主観的な感想に終わる
「楽しかった」「疲れた」という感情的な記述だけでは、次の改善につながりません。「なぜそう感じたか」を一言添えるよう促すだけで、観察の質が上がります。ファシリテーターが「それはなぜですか?」と問い続けることが、感想を観察に変える最もシンプルな介入です。
他手法との組み合わせ
Rose・Thorn・Budで上がったThornを深掘りするときは5 Whys(5回のなぜ)が有効です。根本原因まで掘ると、表面的な「もっとコミュニケーションをとろう」ではなく「ミーティング設計の前提が違った」という構造的な改善につながります。
Budをアイデアに展開するときはクレイジーエイツやHMW(How Might We)と組み合わせると、種を具体的な試作へと育てやすくなります。
参考文献
- IdeaScale, “Rose, Bud, and Thorn: Usage and Benefits In Design Thinking,” https://ideascale.com/blog/rose-bud-and-thorn-design-thinking/
- Atomic Spin, “Rose, Bud, Thorn (Design Thinking Activity #9),” https://spin.atomicobject.com/design-thinking-rose-bud-thorn/
- TeamRetro, “Rose Bud Thorn Retrospective Template,” https://www.teamretro.com/retrospective-templates/rose-bud-thorn-retrospective/