創造 中級

SCAMPER

既存の製品・サービス・プロセスに7つの問いを当てることで、新しいアイデアを強制的に引き出す創造的思考フレームワーク。創造フェーズの発散ツールとして広く活用される。

所要時間 60〜90分
参加人数 3〜10名
準備物 ホワイトボード、付箋、SCAMPERの問いシート

SCAMPERは、既存の製品・サービス・プロセスに7つの問いを体系的に当てることで、新しいアイデアを強制的に引き出す創造的思考フレームワークです。ブレインストーミングが行き詰まったとき、または「ゼロから考える」より「既存を変形する」アプローチが有効なときに威力を発揮します。

概要

「アイデアを出してください」と言われて、すぐにアイデアが出るチームは多くありません。ワークショップでよく起こるのは、最初の数分間は活発だったブレインストーミングが、5分後には沈黙になるパターンです。SCAMPERは「考える方向」を7つのレンズで強制的に切り替えることで、沈黙を破るための構造的ツールです。

SCAMPERは1953年にアレックス・オズボーン(ブレインストーミングの考案者)が提案した概念を元に、ボブ・エーベルが1971年に7つの問いとして体系化しました。各頭文字がフレームワーク名を形成しています。

7つの問い

頭文字英語意味
SSubstitute代替する
CCombine組み合わせる
AAdapt適応させる
MModify / Magnify修正する・拡大する
PPut to other uses他の使い方をする
EEliminate除去する
RReverse / Rearrange逆にする・並び替える

各レンズの詳細

S:Substitute(代替)

「何かを別のもので置き換えたらどうなるか?」 素材、プロセス、人物、場所を別のものに変える問いです。

例として、従来の紙の地図をスマートフォンのナビに置き換えた変化、カスタマーサポートを電話からチャットボットに置き換えた変化が挙げられます。問いの具体例:「このサービスのコアを担っているのは何か?それを他のもので代替できるか?」

C:Combine(組み合わせ)

「異なる要素や機能を組み合わせたらどうなるか?」 異業種のサービス、矛盾するように見える機能の統合が新しい価値を生みます。

スマートフォンは電話・カメラ・地図・決済を1つに統合した典型例です。フィットネスとゲームを組み合わせたゲーミフィケーション型アプリも同様のパターンです。

A:Adapt(適応)

「他の分野のアイデアや手法を、今の問題に応用したらどうなるか?」 既存の解決策を新しいコンテキストに持ち込むことで、開発コストを下げながら新しい価値を生み出せます。

航空会社のマイレージプログラムをコーヒーショップのロイヤルティプログラムに適応させた事例は、このレンズの代表例です。デザイン思考そのものも、デザイナーの思考法をビジネスの文脈に適応させた例と見ることができます。

M:Modify / Magnify(修正・拡大)

「形、サイズ、頻度、強度を変えたらどうなるか?」 より大きく、より速く、より頻繁に、逆により小さく、よりシンプルにするといった変形の問いです。

「より小さくする」アプローチから生まれたのが、スティーブ・ジョブズが推し進めたポータブル音楽プレーヤーのコンセプトです。「より大きな画面」という修正がタブレット市場を生み出しました。

P:Put to other uses(他の用途)

「現在の用途以外に、どんな使い方ができるか?」 既存の資産・スペース・スキルを別の文脈に転用する発想です。

倉庫をスタジオやコワーキングスペースに転用したリノベーション事例、企業の物流ネットワークをラストマイル配送サービスとして外部に開放したケースが典型です。

E:Eliminate(除去)

「何かを取り除いたらどうなるか?シンプルにすることで、何が生まれるか?」 過剰な機能・工程・障壁を取り除くことで、ユーザー体験が劇的に向上することがあります。

Airbnbの予約フローでは、入力フィールドの数を減らすことで予約完了率が向上した事例があります。Airbnbのデザイン思考事例では、シンプルな「写真撮影」という施策が事業を変えた経緯が描かれています。

R:Reverse / Rearrange(逆転・並び替え)

「順序を逆にしたら?主役と脇役を入れ替えたら?」 当たり前だと思っていた順序や役割を崩すことで、まったく異なる体験が生まれます。

試乗してから購入契約ができる自動車販売モデル、先に結果を体験させてから課金するフリーミアムサービスは、このレンズの典型例です。

ステップ

Step 1:対象を定義する

SCAMPERを適用する対象(製品・サービス・プロセス)を1つ選び、その主要な要素・機能・特徴を書き出します。対象が具体的であるほど、問いに対する答えも具体的になります。

Step 2:7つのレンズを順に当てる

チームで各レンズの問いを読み上げ、対象に当てはめてアイデアを出します。1つのレンズに10〜15分を使い、出てきたアイデアを付箋に書いて貼り出します。全員が書き、話しながら共有するという同時並行スタイルが勢いを保つコツです。

Step 3:有望なアイデアをマークする

7つのレンズを使い切ったら、貼り出されたアイデアを俯瞰し、「これは面白い」「もっと深掘りしたい」と感じるものをマークします。ドット投票と組み合わせることで、収束が効率的になります。

Step 4:深掘りと具体化

マークしたアイデアについて「どんなユーザーにとって価値があるか」「実現するために何が必要か」を議論します。SCAMPERはアイデアを生む場ではなく、アイデアの種を見つける場です。種から育てるのは次のステップです。

ファシリテーションのコツ

対象の解像度を上げてから始める

「スマートフォンアプリ」という曖昧な対象より、「ユーザーが毎朝チェックする通知機能」という具体的な機能に対してSCAMPERを当てた方が、アイデアの質が上がります。対象を1つのユーザーアクションまで絞ってから始めると効果的です。

「変な答え」を歓迎する文化を作る

SCAMPERは「正しいアイデア」を探すのではなく、思考のパターンを壊すためのツールです。「それは実現不可能だ」という評価は禁止し、どんな答えも一旦記録するという発散フェーズの原則を徹底しましょう。

7つ全部を使う必要はない

60分のセッションで7つ全てのレンズを消化しようとすると、1つひとつが浅くなります。チームの状況や問題の性質に応じて、3〜4つのレンズを選んで深く使う方が実践的です。

よくある失敗と対策

既存の解決策を繰り返す

SCAMPERの問いに答える際、すでに知っているベストプラクティスを並べるだけになるケースがあります。「そのアイデアは今すでに存在しているか?」と確認しながら、存在しないものを優先的に掘り下げることで発散の質が上がります。

評価と発想を混ぜる

アイデアが出るたびに「でも、それはコストが高い」「技術的に難しい」という評価が入ると、発散が止まります。発散フェーズでは評価を完全に分離し、「すべてのアイデアを記録する」ことに集中することが重要です。

ポイント

  • 対象を具体的に絞ってから始める — 解像度が高いほど答えも具体的になる
  • 7つ全部を使わなくていい — 深さを優先する
  • 変な答えを歓迎する — 発散フェーズでは評価を禁止
  • ドット投票と組み合わせる — 発散から収束への橋渡しに
  • アイデアの「種」として扱う — 具体化は次のステップで

SCAMPERで出たアイデアはドット投票で絞り込み、上位のコンセプトをストーリーボードプロトタイプフェーズへと展開します。


参考文献

  • Bob Eberle, Scamper: Games for Imagination Development, Prufrock Press, 1996
  • Alex Osborn, Applied Imagination: Principles and Procedures of Creative Problem-Solving, Scribner, 1953
  • IDEO.org, The Field Guide to Human-Centered Design, IDEO.org, 2015