AI時代のデザイン思考──人間とAIの協働で、新しい創造が生まれる
生成AIが当たり前になった今、デザイン思考は『対話相手』をAIに変える。3つの実践ケースから、人間がempathizeして、AIがideateを支援し、人間がその先の創造を担う──新しい分業の形を解き明かします。
生成AIが当たり前になった今、デザイン思考は『対話相手』をAIに変える。3つの実践ケースから、人間がempathizeして、AIがideateを支援し、人間がその先の創造を担う──新しい分業の形を解き明かします。
デザイン思考は、本来「人間とのやり取り」を前提に生まれた手法です。
ユーザーとの対話(empathize)、チーム内での議論(define)、集団での発散と収束(ideate)。全てが「人間関係の質」に左右されていました。
しかし今、その前提が変わろうとしています。
2024年から2026年にかけて、私は複数のクライアント企業で**「AIをデザイン思考のプロセスに組み込む」実験を重ねてきました。結論は単純です。AIは人間のデザイン思考を「弱める」のではなく、「新しい段階へ進める」ための触媒**になり得る、ということです。
従来のデザイン思考:人間 → empathize → 人間 → define → 人間 → ideate → 人間 → prototype → 人間 → test
新しいデザイン思考:人間 → empathize → 人間 AI ↔ 人間 → ideate(新形式) → AI × 人間 → prototype → 人間 → test
ポイントは、AIが「全段階に入る」わけではなく、特に define から ideate にかけて、AIが『思考のスパーリングパートナー』になるという点です。
実務的には、こう動きます。
昨年6月、ある SaaS 企業で「新しい料金体系の設計」を支援しました。CEO、営業、プロダクトマネージャー計5名が参加。所要時間は2日間。
初日:empathize → define(従来型)
初日は、既存顧客10社のインタビュー記録(テキスト化済み)を皆で読み込み、「顧客は何に困ってるのか」を付箋で整理していく。AIは一切使いません。ここは人間の共感力が要。
午後、その10社の顧客背景をまとめたら、ここからAIが登場します。
2日目:define ↔ AI ↔ ideate(新型)
私は、初日に出た「顧客の困り」を ChatGPT-4 に投げ、こう指示しました。
「この10社の顧客背景と困りを見たとき、この企業の『料金体系の問題』は、本当は何か。5つの異なる視点から、問題を再定義してほしい。」
出てきた5つの再定義:
参加者全員が沈黙。その後、CEO が発言。
「5番目。これだ。ウチらが『安い、シンプル』を売りにしてたけど、本当は顧客が『このツール導入して、ウチの売上いくら増えるんだっけ』って判断基準なんだ。」
AIが問題を『再フレーミング』したことで、従来のdefine議論を一段上に引き上げた。それが、その後の ideate の質を激変させました。
従来なら「定額○円 vs 従量課金△円」という選択肢の中で議論してたはずです。でもAIの5つの視点を経由することで、「そもそも顧客は ROI で判断してるんじゃ?」という本当の問題へ到達した。
その後の ideate では、単なる「価格設定」ではなく、「顧客の売上増加をトラッキングする仕組み」「業種別のテンプレート料金」といった、全く別次元の提案が出ました。
AIは『新しい問い』を投げ掛けることで、人間の創造性を解き放つ触媒になったのです。
2025年初め、ある出版社の編集チーム(編集長、編集者3名)が「次のベストセラー候補」を探すワークショップをしました。私が facilitator として入ったのは、この企業が「AI + 人間判断」のハイブリッド企画開発を試みたかったから。
プロセス:
AI の抽出:
その後、編集長が提示した3つの候補企画に対し、AI に「この5つの DNA でスコア付けしてくれ」と要求。
結果:
編集長の直感では「候補A と C」だったとのこと。ですが、AI のスコアリングと理由を見ることで、「あ、候補B の方が、マーケット的には成功確度が高い」という判断に変わりました。
ここでも、AIが『人間の選択を、データ駆動の観点から検証』する役割を果たした。
人間の創意と直感が全てではなく、市場のパターンと照らし合わせることで、『直感を自信に変える』ツール として AIが機能していたのです。
最後のケースは、私が最も「AIの限界」を感じた案件でもあります。
製造業A社が「新しい素材を活かした B2C 商品」を企画する際、AI に「この素材で、どんな商品が考えられるか」と 100 パターンのアイデアを生成させました。
その 100 案は、技術的には正しい。しかし、実務上のマニュファクタリング・コストや、流通の現実を全く無視していた。
例:「マグネシア樹脂で作る『超軽量ゴルフ用ロボット鳥型カメラ』」← 中国の OEM ですら コスト合わない。
ここで気づいたのは、AI の ideate は『自由度』には優れているが、『実現可能性の制約』を本当には理解していないということ。
その後、私は プロセスを調整しました。
つまり、AI は『発散の勢い』を提供するが、『制約下での実行可能性』は人間が保証する という分業です。
AI 時代の デザイン思考は、こう定義し直せます。
「人間が『本当の問題』を感じ取り、AI が『それを複数の角度から再定義』し、人間が『その中から創造的な選択』をし、最後に人間が『実現可能なカタチに磨く』。」
従来のデザイン思考の 5 フェーズを活かしながら、define と ideate の間に『AI との対話』を挿入するという、小さく、でも本質的な変化です。
重要なのは、AI に「代わってもらう」のではなく、『対話相手としての AI』を使い こなすことです。
その先には、今までに無い速度で、でも見落としも減った状態で、新しい価値を生み出していくデザイン思考の形があります。
手を動かしながら、その感覚を掴んでいく。それが、今を生きるデザイン思考者に求められていることなのです。
カテゴリ: practice(実践) 関連記事: