共感 初級

エンパシーマップ テンプレート集 — すぐ使える5パターン

エンパシーマップのテンプレート5種類を目的別に整理して解説。基本4象限から拡張版・チーム用・BtoB用・デジタル用まで、プロジェクトの文脈に合わせて選べるテンプレートガイド。

所要時間 20-90分(パターンによる)
参加人数 1-20人(パターンによる)
準備物 付箋、ペン、ホワイトボードまたは大きな紙(印刷テンプレート可)

「エンパシーマップを使いたいが、どのテンプレートを選べばよいか分からない」という声は、実際のワークショップ現場でよく聞かれる。

エンパシーマップは、4象限という単純な構造を持つ一方で、プロジェクトの目的・チームの人数・対象ユーザーの特性によって、最適なテンプレートが変わる。 基本の4象限をそのまま使って「物足りなかった」「複雑すぎて使いこなせなかった」というケースは多い。

本記事では、目的別に使い分けられる5つのテンプレートパターンを、各パターンの活用シーンと記入のコツとともに解説する。


エンパシーマップとは何か(簡潔に)

エンパシーマップはDave Grayが開発したユーザー理解のフレームワークだ。ユーザーの体験を「言っていること・考えていること・していること・感じていること」の4つの視点で整理することで、チーム全体がユーザーへの理解を共有できる地図として機能する。

詳しい活用法と理論的背景は共感マップ(Empathy Map)を参照してほしい。

本記事では「すぐ使える」をコンセプトに、5つのテンプレートパターンを実践的に紹介する。


テンプレート1:基本4象限(最初の一枚)

概要

もっとも広く使われているスタンダードなテンプレート。エンパシーマップを初めて使う時、または時間が限られている時に最適だ。

象限構成

┌─────────────────┬─────────────────┐
│   THINK(考え)  │   SAY(言葉)    │
│                 │                 │
│  口にしない内側  │ 実際に口にした   │
│  の思考・信念   │ 言葉・発言      │
├─────────────────┼─────────────────┤
│   DO(行動)    │   FEEL(感情)   │
│                 │                 │
│  実際の行動・   │ 体験に伴う感情・  │
│  ルーティン     │ 感情の変化      │
└─────────────────┴─────────────────┘

中央にペルソナ名・写真・概要を配置する。

記入のコツ

SAY欄には「ユーザーが実際に使った言葉」を必ずそのまま記入する。 要約・解釈は後でいい。まず生の発言を象限に貼ることで、チーム内の解釈のズレを防げる。

THINK欄は推察になるため、「〜しているのでは?」という問い形式で記入すると、仮説であることが視覚的に明確になる。DO欄は、言葉ではなく「観察した行動」のみを記入するのがルールだ。感情的な評価は加えない。

活用シーン

  • インタビュー直後の整理(1時間以内に記入する)
  • チームがエンパシーマップを初めて使う時
  • プロジェクト初期の「ユーザー理解のスタート地点」を作る時

所要時間

一人のユーザーに対して20〜30分。インタビュー後すぐに行うと記憶が新鮮なうちに記入できる。


テンプレート2:拡張6象限(深い探索向け)

概要

基本4象限に「Pain(痛み・障壁)」と「Gain(得たいもの・期待)」の2象限を追加したパターン。Dave Grayの改訂版(2017年更新)に基づく構成だ。

象限構成

┌──────────────────────────────────────┐
│              THINK & SAY             │
│    (思考と発言を統合した上部象限)    │
├─────────────────┬────────────────────┤
│      SEE        │       HEAR         │
│  見ている環境・  │  周囲から聞こえる   │
│  置かれている状況 │  声・メディア       │
├─────────────────┼────────────────────┤
│   DO & SAY      │   THINK & FEEL     │
│  外から見える    │  内側の思考と感情   │
│  行動と発言      │                   │
├─────────────────┴────────────────────┤
│      PAIN            │      GAIN      │
│  恐れ・不安・障壁    │  期待・欲求・夢  │
└──────────────────────────────────────┘

活用シーン

  • ユーザーインタビューを複数回実施した後の深い分析
  • 「表面的な理解」から「深層的な動機」まで掘り下げたい時
  • 仮説からの検証セッション(「このユーザーのPainは何か」を問いにする時)

記入のコツ

SEE欄は「ユーザーが日常的に見ている世界」を描く。競合他社の広告、同僚の行動、SNSのフィード。ユーザーが「当たり前」だと思っているものが、インサイトの宝庫になることが多い。

HEAR欄には「ユーザーが影響を受けている声」を記入する。上司の指示、友人のアドバイス、メディアの情報。意思決定に影響を与えている情報源を特定することで、コミュニケーション設計に直結する知見が得られる。

所要時間

一人のユーザーに対して45〜60分。複数回のインタビューデータを統合する際に使う。


テンプレート3:チーム統合版(複数ユーザー対応)

概要

複数人のインタビューデータを一枚のマップに統合するためのテンプレート。5〜10人のユーザーデータを比較・統合する際に使う。

構成の特徴

基本4象限を使いながら、「ユーザーAの発言」「ユーザーBの発言」を色分けした付箋で象限に貼り分ける。最終的に「多くのユーザーに共通すること(中央付近に移動)」と「ユーザー固有のこと(外側)」を視覚的に分離する。

準備するもの

  • 色分けした付箋(ユーザーごとに色を変える。5色あれば十分)
  • 各インタビューで記録した発言・行動のメモ
  • A0用紙またはホワイトボード(複数人分のデータが入るサイズが必要)

記入のコツ

貼り付け後の「クラスタリング」が最重要プロセスだ。 似た付箋を近くに寄せていくと、「複数のユーザーが共通して感じていること」が浮かび上がる。このクラスターがインサイトの候補になる。

一人でやると見落としが多いため、最低2人のチームで作業することを推奨する。「これとこれは似ている」という判断を複数人が行うことで、インサイトの質が上がる。

活用シーン

  • ユーザーリサーチの統合フェーズ
  • 複数の顧客セグメントの比較分析
  • インサイトの抽出と定義フェーズへの橋渡し

所要時間

5人分のデータで60〜90分。事前に個別ユーザーの基本4象限を完成させておくと、統合作業がスムーズになる。


テンプレート4:BtoB用(意思決定者・利用者分離型)

概要

BtoBサービスの設計・改善に特化したテンプレート。「サービスの意思決定者(例:購買担当)」と「サービスの実際の利用者(例:現場スタッフ)」が異なる場合に有効だ。

構成の特徴

A4用紙2枚を並べる形で、左側に「意思決定者マップ」右側に「利用者マップ」を作る。各マップは基本4象限を使いながら、以下の追加項目を設ける。

  • 意思決定者マップ追加項目: 「評価指標(KPI)」「承認のための根拠として重視すること」
  • 利用者マップ追加項目: 「実際の業務フローにおける利用場面」「周囲の同僚との関係性」

活用シーン

  • BtoB SaaSの製品設計・提案設計
  • 企業向けの研修・コンサルティングサービスの価値設計
  • 購買プロセスと利用プロセスの両方を改善したい時

実際にやってみると、意思決定者と利用者のPainがまったく別の問題であることが多い。 「意思決定者はコスト削減を重視している」「利用者は学習コストの低さを重視している」という乖離が可視化されると、提案・製品の設計方針が大きく変わることがある。

所要時間

意思決定者1名・利用者1名に対して計60分。2枚並べて完成後、乖離点のリストアップに追加15分を使う。


テンプレート5:デジタル体験用(タッチポイント連動型)

概要

Webサービス・アプリ・デジタルプロダクトの設計改善に特化したテンプレート。ユーザーが特定のタッチポイント(ランディングページ・オンボーディング・特定の機能画面など)を体験する瞬間の感情・思考を詳細に記録する。

構成の特徴

基本4象限に加え、上部に「タッチポイントの特定」を配置する。

┌──────────────────────────────────────┐
│  タッチポイント: [例:初回オンボーディング] │
│  ユーザーがいるフェーズ: [例:サインアップ後3分] │
├─────────────────┬────────────────────┤
│    THINK        │      SAY           │
│                 │                   │
├─────────────────┼────────────────────┤
│      DO         │     FEEL           │
│                 │                   │
├─────────────────┴────────────────────┤
│  PAIN(摩擦・つまずきポイント)         │
│  GAIN(達成感・続けたいと思う瞬間)     │
└──────────────────────────────────────┘

活用シーン

  • UXリサーチで特定の画面・フローを評価する時
  • ユーザーテスト後のデブリーフィングセッション
  • A/Bテストの仮説設計前の「ユーザー心理の可視化」

記入のコツ

タッチポイントは「できるだけ具体的な場面」に絞る。 「初回利用時」という広いスコープではなく、「初回利用時のオンボーディング画面で最初のタスクを完了する瞬間」まで絞ることで、記入内容が具体的になる。

DO欄には、実際のユーザーテストで観察された操作の詳細を記録する。「入力に迷った」「何度もヘルプを開いた」「バックボタンを押した」など、画面上の行動を具体的に。

所要時間

一つのタッチポイントに対して30〜45分。ユーザーテスト終了後すぐに記入することを強く推奨する。


5パターンの選び方:早見表

状況推奨パターン
初めてエンパシーマップを使うテンプレート1(基本4象限)
インタビューを5回以上実施済みテンプレート2(拡張6象限)またはテンプレート3(チーム統合版)
複数ユーザーのデータを比較したいテンプレート3(チーム統合版)
BtoBサービスの設計をしているテンプレート4(BtoB用)
アプリ・Webサービスを改善したいテンプレート5(デジタル体験用)
時間が30分以内しかないテンプレート1(基本4象限)の一部のみ

共通する失敗パターン3つ

どのテンプレートを使う場合でも、ワークショップでよく起こる失敗パターンがある。

失敗1:解釈を先に書いてしまう。 SAY欄に「ユーザーは使いやすさを求めている」と書くのは解釈であり、発言ではない。「難しくてよく分からなかった」というユーザーの言葉そのものを書くことが正しい。解釈は後の分析フェーズで行う。

失敗2:全象限を均等に埋めようとする。 特定の象限が空白であることは問題ではない。インタビューで観察できなかった部分を無理やり埋めることの方が、後の分析を歪める原因になる。空白は「まだ分かっていないこと」の正直な表現だ。

失敗3:一人で完成させようとする。 エンパシーマップは、チームで記入し議論するプロセスに意味がある。個人作業で完成させたマップは、チームの共通理解を生まない。


テンプレートを使い終えた後:インサイトへの接続

エンパシーマップはゴールではなく、インサイト抽出への橋渡しだ。マップが完成したら、「このユーザーについて、私たちがまだ理解していないことは何か」という問いを立てる。

その問いが、次のインタビューの設計に活かされ、最終的にHow Might Weの策定につながる。エンパシーマップの価値は、記入した瞬間ではなく、チームがそのマップを見ながら議論した時間の密度で決まる。

エンパシーマップを使った後の手順の詳細についてはエンパシーマッピング ステップバイステップガイドを参照してほしい。組織変革の文脈でのエンパシーマップ活用についてはエンパシーマップを組織変革に活かす実践論にも詳しい解説がある。