Larry Leifer は、スタンフォード大学機械工学部(Department of Mechanical Engineering)の教授であり、デザイン思考を「工学教育」の文脈に根づかせた中心人物のひとりだ。
Center for Design Research の設立
Leifer は Stanford に Center for Design Research(CDR)を設立し、デザインと工学の接点を研究するアカデミックな基盤を作った。CDR は、デザインプロセスそのものを研究対象とする——どのようにエンジニアや設計者が問題を定義し、解決策を探索するか——というメタレベルの問いに取り組んでいる。
この研究姿勢が、後のデザイン思考の「プロセスの明文化」に貢献した。デザイン思考をフレームワークとして語れるようになった背景には、Leifer らによる実証的なデザインプロセス研究の蓄積がある。
ME310:産学連携グローバルデザイン教育の実験場
ME310 は Stanford の機械工学部で長年続いてきたグローバルなデザインイノベーション教育プログラムだ。1969年に産学連携のコース設計として始まり、Leifer がその発展において中心的な役割を果たした。
このプログラムの特徴は、Stanford の学生と世界各国のパートナー大学の学生がチームを組み、実際の企業スポンサーの課題に取り組むという構造にある。1年間のプロジェクトベースの学習を通じて、学生たちは人間中心のデザインプロセスを実際の複雑な問題に適用する経験を積む。
ワークショップで「ME310出身の実務者」と仕事をすると分かることがある。彼らは「正解があるはずだ」という前提を持たずに問題に入る。不確実性の中でプロトタイプを作り、失敗を情報として扱う姿勢が体に染みついている。Leifer のプログラムが育てた実践的なマインドセットだ。
d.school との関係
2005年、Hasso Plattner の寄付によって Stanford に d.school(Hasso Plattner Institute of Design)が設立された際、Leifer はその設立メンバーのひとりとして関わった。David Kelley が d.school の看板として知られるのに対し、Leifer は工学サイドからデザイン思考の理論的・教育的基盤を支えた人物として位置づけられる。
d.school の設立は、デザイン思考を「デザイナーの手法」から「あらゆる分野の問題解決者の思考法」へと拡張する転換点だった。その背景には、ME310 で長年にわたり学際的なチームを動かしてきた Leifer の実践知が存在する。
実務者への示唆
Leifer の仕事から実務者が学べることは、デザイン思考を「使う」前に「研究する」姿勢の重要性だ。CDR が行ってきたデザインプロセス研究は、ファシリテーターが「なぜこの手法がうまく機能するか」を説明できるための知的基盤を提供している。
ツールとしてデザイン思考を使うだけでなく、そのプロセスを観察し記述し改善していく——Leifer のアカデミックなアプローチは、デザイン思考の実践者が「なんとなくうまくいった」から「なぜうまくいったかを説明できる」レベルへ成長するための姿勢を示している。
参考文献
- Stanford University, Center for Design Research, cdr.stanford.edu
- Stanford University, ME310 Global Design Innovation, me310.stanford.edu
- Hasso Plattner Institute of Design at Stanford (d.school), dschool.stanford.edu