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サーキュラーエコノミー × デザイン思考——廃棄を前提としない製品・サービス設計の実践

製品の「終わり」から設計を始める逆算思考。サーキュラーエコノミーの原則をデザイン思考プロセスに統合し、廃棄ゼロを前提とした製品・サービス設計の具体的手法を、Renault・Philipsの事例とともに解説する。

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製品を設計するとき、多くのチームは「どう作るか」から始める。素材、構造、ユーザーインターフェース。それが出来上がってから「どう廃棄するか」を考える。この順序そのものが、現在の大量廃棄社会を設計している。

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、廃棄を「仕方ないこと」ではなく「設計の失敗」として定義する考え方だ。製品の終わりから逆算して設計を始め、素材が製品から製品へ、製品がサービスへ、サービスが次のイノベーションの起点へと循環し続ける経済モデルを指す。

この考え方とデザイン思考は、表面上は異なる語彙で語られるが、その本質では共鳴している。どちらも「問題の定義そのものを疑う」姿勢を中核に持つ。廃棄という「当たり前」を問い直すのが循環経済なら、ユーザーが「当たり前」だと思っている行動の背後にある本質的なニーズを問い直すのがデザイン思考だ。


なぜ今、循環設計が設計の問題になるのか

Ellen MacArthur Foundation の試算によれば、再生可能エネルギーへの転換だけでは対処できないGHG排出量の約45%は、製品・素材・食料の設計と使われ方に起因するとされる。製品設計の見直しが介入できる領域は、エネルギー転換だけでは届かないこの領域に広がっている。

「廃棄が出るのは仕方ない」という前提は、設計プロセスのあらゆる段階に埋め込まれている。素材選定時に「リサイクルしやすいか」を問わない。モジュール構造の採否を「修理容易性」の観点から評価しない。製品寿命をビジネスモデルから切り離して考える。こうした判断の積み重ねが、廃棄を構造的に生み出す製品群を生産し続けている。

設計段階での決定が製品のライフサイクル全体の環境インパクトの大部分を決定するという事実は、設計者に大きな責任を与えると同時に、大きな可能性も示す。廃棄を減らす最も効果的な介入点は、廃棄処理の改善でも消費者の行動変容でもなく、設計プロセスそのものだ


循環設計の3原則とデザイン思考プロセスの接続

Ellen MacArthur Foundation は循環経済の原則を3つに整理している。「廃棄物と汚染を排除する」「製品と素材を使い続ける」「自然システムを再生する」の3つだ。これをデザイン思考の各フェーズと接続すると、実践的なフレームが見えてくる。

共感フェーズでの拡張。通常の共感調査がターゲットユーザーの現在の行動を把握しようとするのに対し、循環設計の視点では「製品の終わりを体験する人々」への共感が加わる。廃棄処理業者、修理技術者、中古品の購入者、素材の採取地に暮らす人々。これらのステークホルダーは通常のユーザーリサーチには現れないが、製品の循環可能性を評価するうえで不可欠な視点を持っている。

定義フェーズでの問い直し。「問題をどう定義するか」が設計の全体を規定する。線形設計の問いは「この機能をどう実現するか」だが、循環設計の問いは「この機能を、使用後に素材として回収・再利用できる形でどう実現するか」に変わる。問いの構造が変わると、解の空間が変わる。

発想フェーズでのモデル拡張。発想の制約に「廃棄ゼロ」を加えると、ビジネスモデルの選択肢が広がる。製品販売モデルからサービスモデルへの転換(所有から利用へ)、リマニュファクチャリングを前提とした収益設計、素材のクローズドループを実現するバリューチェーン設計。制約は創造性を殺すのではなく、別の経路を開く。


Renaultの事例:自動車産業におけるリマニュファクチャリング

Renaultはフランスのフリン工場(Refactory)で、自動車部品のリマニュファクチャリング(再製造)を事業化している。廃棄される予定だった中古部品を回収・分解・洗浄・再組み立てし、新品と同等の品質保証をつけて市場に戻す循環型の製造プロセスだ。

この取り組みで注目すべきは、リマニュファクチャリングを「環境対応の後付け」ではなく、製品設計の前提として組み込んでいる点だ。分解しやすい構造、部品の規格統一、素材の識別を容易にする設計。これらは製品が市場に出る前の設計段階での意思決定の結果だ。

Renaultは2022年のアニュアルレポートで、リマニュファクチャリングされた部品は新品製造と比較してCO2排出量を最大80%削減できると報告している。コスト面でも、再製造部品は新品の30〜50%程度の価格で提供できるため、価格競争力のある新市場セグメントを開拓している。

ここにデザイン思考のプロトタイプ思考との共鳴がある。「完璧に作って一回売り切る」のではなく、「使われ続け、繰り返しシステムに戻ってくる製品」をデザインする。プロトタイプフェーズで問うべきは「動くか」だけでなく「分解できるか」「素材を識別できるか」「修理可能か」だ。


Philipsの事例:照明のサービス化と素材回収の設計

Philips(現Signify)は2015年頃から「Light as a Service(LaaS)」と呼ばれるビジネスモデルを展開している。企業が照明器具を購入するのではなく、「照明環境」を月額サービスとして契約する形態だ。

このモデルの設計思想は循環経済の原則を体現している。照明器具の所有権はPhilipsに残るため、Philipsには製品を長く使わせ、使用後に回収して素材を再利用するインセンティブが生まれる。顧客は「消耗品を買い続ける」コストから解放され、常に最新・最適な照明環境を維持できる。廃棄物は顧客側から消える。

このビジネスモデルの転換は、技術開発より先にデザイン思考のプロセスを必要とした。顧客が「照明器具」ではなく「明るさ・快適さ・省エネ」という機能を求めているという洞察は、深い共感調査なしには得られない。「製品を売る」前提を疑う定義の問い直し。「所有から利用へ」という発想の転換。それらが揃って初めて、技術とビジネスモデルの設計が始まる。

Philipsの事例は、サステナブル製品設計が単なる素材置換の問題ではなく、ビジネスモデルとユーザー体験の再設計を伴うという点を示す好例だ。


循環設計を実践するための4つの問い

デザインチームが循環経済の視点を設計プロセスに統合するための実践的な問いを4つ挙げる。

1. この製品の「終わり」をどう設計するか。製品が壊れたとき、使われなくなったとき、何が起きるかを先に設計する。分解経路、素材の分別可能性、リセール・リサイクルの容易さ。これを最初のブリーフに含める。

2. 「所有させる」必要があるか。ユーザーが本当に求めているのは機能・体験・状態だ。製品の物理的な所有はその手段に過ぎない場合が多い。サービスモデル・シェアリングモデル・サブスクリプションモデルへの転換可能性を発想段階で検討する。

3. バリューチェーンの「上流」と「下流」に誰がいるか。素材の採取から廃棄処理まで、製品に関わるすべてのアクターをステークホルダーとして地図に描く。サプライチェーンの視点を設計初期に持ち込むことで、循環の回路をクローズドにする設計が可能になる。

4. 素材はシステムの中を「流れている」か、「溜まっている」か。循環経済において素材は流れるべきものだ。製品の設計が素材の流れを止めてしまう構造(分解不能な複合素材、異種材料の接着など)がないかを評価する。流れを止める構造が発見されたら、それが次の設計課題になる。


システム思考との接続——問題の境界を広げる

循環設計の実践で最大の障壁になるのは「自社製品の境界の外は関係ない」という思考の前提だ。素材が自社工場に入ってくる前の採取・輸送。製品が消費者の手を離れた後の廃棄・回収・再処理。これらは「自社製品の外」に位置するが、循環の回路を設計するためには視野に入れなければならない。

システム思考は、この思考の拡張を支援するツールだ。システム全体のフィードバックループ、遅延、レバレッジポイントを可視化することで、個別の製品最適化が全体の循環を妨げる構造を発見できる。

現実には、一社単独でクローズドな循環ループを完結させることは難しい。素材回収のインフラ、リマニュファクチャリングのサプライヤー、廃棄物処理業者との協業が必要になる。これはスマートシティやアーバンイノベーションの文脈でも進む議論で、都市レベルでの素材循環インフラとその設計者としての企業の役割が問われている。

「自社製品の設計」を超えて「産業のシステム設計」に参与する覚悟が、本質的な循環設計には必要だ。それはデザイン思考が本来持つ姿勢——問題の境界を問い直す姿勢——と一致する。


廃棄を前提としない設計の出発点

循環経済とデザイン思考を接続する試みは、どちらか一方を「手法」として消費する話ではない。廃棄を構造的に生み出してきた設計プロセスの前提を問い直し、問いの立て方から変えるという思考の実践だ。

最初のステップは小さくていい。次の製品ブリーフを書くとき、「この製品が10年後にどうなるか」という問いを一行加える。ユーザーリサーチに廃棄処理業者や修理技術者へのインタビューを一件加える。発想セッションに「所有させない解」を一つ加える制約を設ける。

廃棄を「仕方ない」と思うのをやめる設計者が一人増えるたびに、廃棄が「設計の失敗」として可視化される製品が一つ増える。その積み重ねが、循環の回路を少しずつ繋いでいく。


参考文献

  1. Ellen MacArthur Foundation. Towards the Circular Economy: Economic and Business Rationale for an Accelerated Transition. Ellen MacArthur Foundation, 2013.

  2. Ellen MacArthur Foundation. Completing the Picture: How the Circular Economy Tackles Climate Change. Ellen MacArthur Foundation, 2019.

  3. Renault Group. 2022 Universal Registration Document. Renault Group, 2023. https://www.renaultgroup.com/en/investors/publications/

  4. Walter R. Stahel. The Circular Economy: A User’s Guide. Routledge, 2019.

  5. Ken Webster. The Circular Economy: A Wealth of Flows. Ellen MacArthur Foundation Publishing, 2017.

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