サステナビリティ × デザイン思考——製品設計に環境視点を組み込む実践フレーム
デザイン思考のプロセスにサステナビリティ視点を統合する実践フレームを解説。エンパシーの拡張から循環設計の原則まで、Nike・IDEO・Philipsの事例を通じて、環境負荷を削減しながらユーザー価値を高める設計手法を体系化する。
デザイン思考のプロセスにサステナビリティ視点を統合する実践フレームを解説。エンパシーの拡張から循環設計の原則まで、Nike・IDEO・Philipsの事例を通じて、環境負荷を削減しながらユーザー価値を高める設計手法を体系化する。
「環境に配慮した製品を作れ」という要求が、デザインチームに降りてくる。しかし実際のワークショップでは、「サステナブル」という言葉が免罪符になりやすい。素材を変える。パッケージをリサイクル可能にする。「使用後の廃棄方法」をラベルに記載する。それで「サステナブルな製品」と呼べるのか。
答えはほぼ「No」だ。
デザイン思考とサステナビリティの統合は、製品の機能を固定したまま素材や後処理だけを最適化する話ではない。製品が生まれてから廃棄されるまでのライフサイクル全体を、ユーザーの行動・感情・社会文脈と同時に設計するという、思考の構造変換を要求する。
2019年にEllen MacArthur Foundationが発表した調査によれば、製品が生涯にわたって排出するCO2の約80%は、設計段階での決定によって決まる。製品が市場に出てからの省エネや廃棄方法の改善が及ぼせる影響は、残りの20%に過ぎない。
つまり、サステナビリティは素材・後処理の問題ではなく、設計の問題だ。
IDEOは2021年に公開したデザインキット「Design for Sustainability」の中で、従来のデザイン思考のアンカーである「Desirability(人が欲しがるもの)」「Feasibility(技術的に作れるもの)」「Viability(ビジネスとして成立するもの)」の3円モデルに、「Sustainability(地球と社会が持続できるもの)」を第4の円として追加した。この拡張は単なるチェックボックスの追加ではなく、設計プロセスの根本的な問い直しを意味する。
デザイン思考の共感フェーズで問うのは通常「このユーザーが何を必要としているか」だ。しかしサステナビリティ視点では、共感の対象を拡張する必要がある。
将来世代への共感。20年後の消費者は、今日設計した製品の廃棄物と共存しなければならない。IDEO創業者のDavid Kelleyは「デザイナーが未来の自分に共感することで、短期主義のトレードオフが可視化される」と述べている。ペルソナに「2045年に成人する利用者」を加えるだけで、製品寿命・修理容易性・素材選択への問いが変わる。
間接的な影響を受けるステークホルダーへの共感。製品の製造拠点周辺の住民。素材採取地の生態系。廃棄処理施設の作業者。これらの存在は通常のユーザーリサーチには現れない。しかし製品の環境・社会インパクトの多くは、この「見えないステークホルダー」に集中している。
実践的には、ステークホルダーマッピングのセッションに「非ユーザー」「将来ユーザー」「間接影響者」の3カテゴリを標準項目として加えることで、共感の射程を意図的に広げることができる。
製品に関する従来の問題定義は「使用中のユーザー体験」に集中しがちだ。しかし製品は「使用中」だけでなく、生産・輸送・使用・廃棄の全フェーズで環境・社会に影響を及ぼす。
ライフサイクルアセスメント(LCA)との接続。LCAは製品の全ライフサイクルを通じた環境負荷を定量評価する手法で、ISO 14040/14044で規格化されている。デザイン思考との統合において有効なのは、LCAの結果を「数値として報告する」のではなく、問題定義フェーズの「インサイト」として扱うことだ。
具体的な接続方法として、ホットスポット分析が機能する。LCAで明らかになった「環境負荷の最大源」をデザインチームと共有し、そこを起点にHow Might We(HMW)問いを生成する。「製品の60%の排出が輸送フェーズで発生している」なら「どうすれば輸送コストと環境負荷を同時に削減できるか?」という設計問題に変換できる。
アイデア発散のフェーズに、循環設計(Circular Design)の6原則をフレームとして導入することで、アイデアの射程を拡げることができる。これはEllen MacArthur Foundationが提唱するサーキュラーエコノミーの設計原則をデザイン思考ワークショップ向けに翻訳したものだ。
原則1:長寿命設計(Longevity)。製品が長く使われるよう設計する。耐久性の向上だけでなく、修理・アップグレード・リペアのしやすさを設計段階で組み込む。Appleが2022年に開始した「セルフリペアプログラム」は、この方向への一歩として評価されている。
原則2:モジュール設計(Modularity)。部品単位での交換・アップグレードを可能にする設計。Fairphone(フェアフォン)は、スマートフォンの主要モジュール(バッテリー・カメラ・スクリーン)をユーザーが自己交換できるよう設計した事例だ。
原則3:素材の循環(Material Circularity)。製品に使われる素材が、廃棄後に別の製品の原料として回収・再投入できるよう設計する。ここで重要なのは「リサイクル可能な素材を使う」ことではなく「実際にリサイクルされる可能性が高い素材・構造を設計する」ことだ。複合素材や接着剤による固着は、リサイクルの難易度を大幅に上げる。
原則4:製品のサービス化(Product-as-a-Service)。製品を所有するモデルから、使用権を提供するモデルへの転換。Philipsは「Light as a Service」として照明器具の機能を契約サービスとして提供するビジネスモデルを展開している。製品が企業の所有物のまま顧客に使用されるため、メーカーが製品の回収・再生利用に構造的なインセンティブを持つ。
原則5:廃棄の再定義(Waste as Resource)。ある製品の廃棄物を別の製品の資源と見なす視点。Nikeの「Reuse-A-Shoe」プログラムは、廃棄されたスニーカーを粉砕してスポーツ施設の床材「Nike Grind」に再生する。廃棄物を原料として捉え直すことで、製品ライフサイクルをループさせる。
原則6:生物材料の活用(Biological Materials)。土壌に還元できる生物由来材料の活用。石油由来プラスチックから生分解性素材への移行は、リサイクルが困難な場合の代替アプローチだ。ただし「生分解性」は適切な環境条件が整っている場合にのみ機能する点に注意が必要で、「とりあえず生分解性素材を使えばよい」という安易な解釈が問題を引き起こすことがある。
プロトタイプを評価するとき、通常は「使用中のユーザー体験」がテスト対象になる。サステナビリティ視点では、廃棄・回収・再生のシナリオをプロトタイプテストに組み込むことが重要だ。
実践的には「未来のユーザー体験マップ」として、5年後・10年後のユーザーが製品をどう処理するかをシナリオ化し、その段階でのユーザー行動・感情・摩擦を可視化する。「修理が必要になったとき、実際に修理できるか」「廃棄する段階で、ユーザーが正しい経路で廃棄できるか」——これらは製品の設計・ビジネスモデル・ユーザー教育の問題として設計段階に戻ってくる。
Nikeは2019年から「Circular Design Challenge」というデザインコンペを実施している。学生チームが循環設計の原則に基づいてスポーツ製品を提案するプログラムで、サーキュラーデザインとデザイン思考の統合的な実践例として参照されている。
評価基準は機能性・審美性だけでなく、「製品の第2の人生(Second Life)」をどう設計したかが明示的に含まれる。製品が最初の使用後にどのように再使用・修理・素材回収されるかを、設計の一部として提案することが求められる。
この取り組みが示すのは、サステナビリティが「制約の追加」ではなく「創造性を刺激するデザインブリーフの要素」として機能しうるという実践的な事実だ。
デザイン思考とサステナビリティの統合に対し、組織が示す抵抗のパターンはほぼ共通している。
「コストが上がる」「スケジュールが延びる」「マーケットの準備ができていない」——これらはすべて「問題定義が完了していない状態での反論」だ。どれだけ環境負荷を削減できるか、その節約がコスト削減につながるか、ライフサイクルコスト全体で見れば投資回収できるか——これらは設計の段階で検証できる問いだ。
突破口は、サステナビリティを「コスト」ではなく「イノベーションの起点」として定義し直すことにある。制約が設計の創造性を高めるのは、デザイン思考が長年示してきた事実だ。「廃棄コストを最小化せよ」という制約は、ビジネスモデル革新(製品のサービス化)・素材技術革新(生分解性材料)・ユーザー関係革新(修理文化の醸成)という3方向のイノベーション機会を同時に開く。
デザイン思考が「人間中心」の方法論であるなら、その「人間」は今日のユーザーだけを指さない。20年後の地球に生きる人間を含めて、初めて「人間中心」は完成する。