ダブルダイヤモンド vs デザインスプリント——プロジェクトに合うのはどちらか
英国デザイン協議会のダブルダイヤモンドとGoogle Venturesのデザインスプリント、2つのフレームワークの出自の違いと使い分けの判断基準を整理する。
英国デザイン協議会のダブルダイヤモンドとGoogle Venturesのデザインスプリント、2つのフレームワークの出自の違いと使い分けの判断基準を整理する。
「5日間で終わるはずのデザインスプリントを始めたのに、初日のインタビューだけで3日かかり、金曜日のテストにたどり着けなかった」。ワークショップの現場で何度も聞くこの相談は、たいてい同じ場所でつまずいている。課題がまだ定まっていないプロジェクトに、課題が定まっている前提のフレームワークを当てはめてしまっているのだ。
ダブルダイヤモンドとデザインスプリントは、どちらも「発散してから収束する」という見た目の構造が似ているため、しばしば同じもの・あるいは片方がもう片方の縮小版だと誤解される。実際には出自も設計思想も違う、別の目的を持った道具だ。
ダブルダイヤモンドは、英国デザイン協議会(Design Council)が2004年に発表し、2005年の調査報告書 “A Study of the Design Process” で体系化したプロセスの地図である。11のグローバル企業のデザイン部門を対象にした定性調査から、優れたデザインプロセスに共通する構造を抽出したものだ。Discover(発見)→ Define(定義)→ Develop(展開)→ Deliver(提供)という4段階で、課題を見つけるところから解決策を届けるところまでを扱う。期間や進め方は規定していない。3週間かけてもいいし、3ヶ月かけてもいい——それは各組織の裁量に委ねられている。
一方のデザインスプリントは、Google Venturesのジェイク・ナップらが実務の中で編み出した5日間の実行手順書だ。詳細は『SPRINT』にまとめられている通り、月曜に課題とゴールを固定し、火曜にアイデアを出し、水曜に決定し、木曜にプロトタイプを作り、金曜にユーザーテストで検証する。曜日ごとにやることが決まっているため、初参加のメンバーでも迷わず進められる。
似ているのは「発散→収束」という骨格だけで、ダブルダイヤモンドが「どこまでの範囲を、どんな順序で扱うか」という地図であるのに対し、デザインスプリントは「その中のどの部分を、どう5日間に圧縮するか」という手順書である。地図と手順書を比べて「どちらが優れているか」を論じても、答えは出ない。
観点を分けると、両者の役割はもう少しはっきりする。
| 観点 | ダブルダイヤモンド | デザインスプリント |
|---|---|---|
| 性質 | プロセスの地図(期間は規定しない) | 5日間の実行手順書 |
| 起点 | 課題そのものが未確定でもよい | 課題とゴールが既に決まっている前提 |
| 主な問い | 「そもそも何が問題か?」 | 「このアイデアは機能するか?」 |
| 対象フェーズ | 課題発見〜解決策の実行まで全域 | 課題確定後の解決策検証に特化 |
| チーム体制 | 継続的なプロジェクトチーム向き | 一時的に招集した集中チーム向き |
分岐点は明快で、「課題がまだ探索を必要とする段階か、既に検証すべき仮説がある段階か」の一点に尽きる。
どちらか迷うなら、次の3問で見当がつく。
現場でよく機能するのは、どちらか一方を選ぶのではなく、ダブルダイヤモンドの中にデザインスプリントを埋め込む二段構えだ。
ダブルダイヤモンドのDiscover/Defineフェーズで、共感によるユーザー理解と問題定義を先に済ませ、「検証すべき仮説」を1つの形に絞り込む。その仮説が固まった時点で、Developフェーズの入り口にデザインスプリントの5日間を差し込み、Make〜Testまでを一気に走らせる。探索の遅さとスプリントの速さを、それぞれ得意な場所で使う組み合わせだ。
この使い分けを知らないまま起きる失敗は、だいたい2パターンに集約される。1つは、課題が固まっていない状態でスプリントを始めてしまい、月曜のゴール設定に3日かかって金曜のテストにたどり着けないパターン。もう1つは逆に、ダブルダイヤモンドのDiscover/Defineを終えても検証に移らず、探索フェーズをいつまでも続けてしまうパターンだ。後者は一見丁寧に見えるが、「検証すべき仮説」が明確になった瞬間からは、探索を続けるほど手がかりは薄まっていく。
今取り組んでいるプロジェクトは、まだ課題を探している段階か、それとも既に検証すべき仮説を1つ抱えている段階か。前者ならダブルダイヤモンドの各フェーズを順に読み進めてほしい。後者ならデザインスプリントの実践例と『SPRINT』の要約から、5日間の具体的な進め方を確認するのが早い。
道具の名前ではなく、いま自分がどちらの地点に立っているかを先に決める。地図が要るのか、手順書が要るのか——それだけの違いだ。