ダブルダイヤモンド(Double Diamond)は、「正しい問題を見つけてから、正しい解決策を作る」という設計原理を視覚化したフレームワークです。英国Design Councilが2004年に発表し、世界中のデザイン教育・ビジネス実務で標準的なプロセスモデルとして活用されています。

「解決策はあるのに、問題が間違っている」という落とし穴

プロダクト開発やサービス改善の現場で、こんな事態が起きていないでしょうか。ユーザーが離脱する原因を「UIの分かりにくさ」だと断定し、画面を全面リニューアルしたのに、離脱率が変わらない。 後から調べてみたら、問題はUIではなく料金体系にあった。

ワークショップでよく起こるのは、課題が十分に探索されないまま解決策の議論に突入するパターンです。「解決策を考えるのは楽しいが、問題を掘り下げるのは地味で退屈」という心理が、チームを誤った方向に導きます。

この「焦り」には構造的な理由がある

実際にやってみると、チームが解決策に飛びつく背景には理由があります。進捗を示さなければならないプレッシャー、上層部への報告、四半期ごとの成果要求。 「まだ問題を探索しています」という報告は、組織内で評価されにくい。

結果として、最初に思いついた仮説をそのまま正式な「問題定義」にしてしまう。この構造的なバイアスに対抗するために、ダブルダイヤモンドは「問題の探索にも十分な時間を使え」と明示的にプロセスに組み込んだのです。

ダブルダイヤモンドの4フェーズ

Design Councilは2004年にこのモデルを発表し、その後2007年に「Eleven Lessons: Managing Design in Eleven Global Brands」として11社のグローバル企業のデザインプロセスを詳細に調査・公開しました。成功するプロジェクトに共通するパターンを、4つのフェーズ――Discover、Define、Develop、Deliverとして体系化したのがダブルダイヤモンドです。

第1ダイヤモンド:正しい問題を見つける

Discover(発見):広く探索する

最初のフェーズでは、先入観を捨てて課題領域を広く探索します。 ユーザーインタビュー、フィールド観察、デスクリサーチなど、多角的な情報収集を行います。

ここで重要なのは、「問題はすでに分かっている」という前提を疑うことです。参加者からの声として、「自分たちが想定していた課題と、ユーザーが本当に困っていることが全く違った」という発見は珍しくありません。

Define(定義):本質的な問いに絞り込む

集めた情報を親和図法(KJ法)などで整理し、解くべき本質的な問題を1つに絞り込みます。 発散で広げた視野を収束させる、第1ダイヤモンドの後半です。

この段階で作成するPOVステートメントや「How Might We」の問いが、第2ダイヤモンドの出発点になります。問題定義の質が、最終的なソリューションの質を決定します。

第2ダイヤモンド:正しい解決策を作る

Develop(開発):解決策を幅広く検討する

定義した問題に対して、多様なアプローチから解決策を発想します。 ブレインストーミング、Crazy 8s、アナロジー思考など、量を重視した発散的なアイデア出しを行います。

実際にやってみると、最初のアイデアに愛着を持ってしまい、他の可能性を探索しなくなるチームが多いです。「最初のアイデアがベストであることは、ほぼない」という前提でプロセスを進めることが重要です。

Deliver(提供):検証して届ける

候補となるアイデアをプロトタイプし、ユーザーテストを通じて最も効果的な解決策を選択・実装します。 小規模な実験を繰り返し、学びを反映しながら完成度を高めていきます。

このフェーズで重要なのは、「完成品を届ける」ではなく「学びながら完成させる」というマインドセットです。初期のプロトタイプが失敗しても、それは貴重なデータにほかなりません。

d.schoolの5フェーズモデルとの比較

ダブルダイヤモンドとd.schoolのデザイン思考5フェーズは、よく比較されます。本質的な思想は共通していますが、強調するポイントが異なります。

観点ダブルダイヤモンドd.school 5フェーズ
発祥英国Design Council(2004年)スタンフォード大学(2005年)
フェーズ数4(Discover / Define / Develop / Deliver)5(Empathize / Define / Ideate / Prototype / Test)
最大の特徴発散と収束のリズムを明示共感(Empathize)を独立フェーズとして重視
プロセス観2つのダイヤモンド=問題空間と解決空間の分離5フェーズの反復(イテレーション)
主な活用文脈サービスデザイン、政策デザインプロダクト開発、イノベーション教育

d.schoolモデルが「共感から始める」ことを強調するのに対し、ダブルダイヤモンドは「問題の探索と解決策の探索を明確に分ける」ことを強調します。どちらが優れているかではなく、プロジェクトの性質に応じて使い分けるのが現実的です。

2019年の進化:Framework for Innovation

Design Councilは2019年に、ダブルダイヤモンドを拡張したFramework for Innovationを発表しました。元のモデルに「デザイン原則」と「エンゲージメント方法」を追加し、組織文化やリーダーシップといった実行環境まで視野に入れたフレームワークです。

追加された4つのデザイン原則は以下の通りです。

  • Be People-Centred(人間中心であれ)
  • Communicate Visually & Inclusively(視覚的かつ包括的に伝えよ)
  • Collaborate & Co-Create(協働し共創せよ)
  • Iterate, Iterate, Iterate(繰り返し、繰り返し、繰り返せ)

この拡張は、プロセスモデルだけでは現場の変革は起きないという、20年の運用実績から得た教訓を反映したものです。

実務で使うための3つの指針

第1ダイヤモンドに十分な時間を投資する

多くのプロジェクトで、Discoverフェーズが不十分なまま解決策に進んでしまいます。全体の工程の少なくとも3分の1をDiscoverとDefineに割り当てることを意識してください。問題の理解が浅いまま作った解決策は、手戻りコストが膨大になります。

発散と収束を意識的に切り替える

「今は広げるフェーズか、絞るフェーズか」をチーム全員が共有していることが重要です。発散中に「それは現実的じゃない」と評価を始めたり、収束中に「もっと他の可能性は」と広げ始めたりするのは、プロセスの混乱を招きます。

直線的に進まなくてよい

ダブルダイヤモンドは直線的なプロセスに見えますが、実際にはフェーズ間を行き来するのが当然です。Developで解決策を検討した結果、問題定義に戻る必要が生じることは珍しくありません。図の美しさに縛られず、必要なときに戻る柔軟性を持ちましょう。

まず「問い」を疑うことから始める

ダブルダイヤモンドが教える最も重要な教訓は、「正しい問いなしに、正しい答えは生まれない」ということです。新規事業の立ち上げ、サービスの改善、組織課題の解決。どんなプロジェクトであっても、解決策を考える前に「そもそもこの問いは正しいのか」と立ち止まる習慣が、成果の質を根本的に変えます。

次のプロジェクトで、最初のミーティングで解決策の議論を禁止してみてください。 代わりに「この問題について、私たちが知らないことは何か」を30分議論する。その30分が、数ヶ月の手戻りを防ぐかもしれません。


参考文献

  • Design Council, “Eleven Lessons: Managing Design in Eleven Global Brands”, designcouncil.org.uk, 2007
  • Design Council, “What is the framework for innovation? Design Council’s evolved Double Diamond”, designcouncil.org.uk, 2019
  • Tim Brown, Change by Design, HarperBusiness, 2009
  • IDEO.org, The Field Guide to Human-Centered Design, IDEO.org, 2015

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