デザイン思考とは何か——人間中心イノベーションの全体像
デザイン思考(Design Thinking)の定義、歴史、5つのフェーズ、ビジネスへの応用を包括的に解説。IDEOとスタンフォードd.schoolの知見を踏まえた入門ガイド。
デザイン思考(Design Thinking)の定義、歴史、5つのフェーズ、ビジネスへの応用を包括的に解説。IDEOとスタンフォードd.schoolの知見を踏まえた入門ガイド。
デザイン思考(Design Thinking)は、デザイナーが問題解決に用いる思考プロセスを、ビジネスや社会課題の解決に応用する方法論です。
IDEO の元CEO Tim Brown は、デザイン思考を次のように定義しています。
デザイナーの感性と手法を用いて、人々のニーズ、テクノロジーの可能性、ビジネスの成功要件を統合するイノベーションへの人間中心アプローチ。
この定義が示すように、デザイン思考は3つの要素のバランスを追求します。
スタンフォード大学 d.school が体系化した5つのフェーズは以下の通りです。
これらのフェーズは直線的ではなく、反復的(イテラティブ)に進行します。テストの結果によって共感フェーズに戻ったり、問題定義を見直すことも日常的に行われます。
「デザイン思考を始めたい」という相談を受けるとき、最初の問いは決まって「どのフェーズから手をつければいいですか?」です。答えはシンプルで、必ず共感フェーズから始めてください。 実際にやってみると、ほとんどのチームが「問題はもう分かっている」と共感をスキップして創造フェーズに入り、あとから「想定と全然違うユーザーニーズが出てきた」と共感フェーズに戻ることになります。
5つのフェーズが「直線ではなく反復」という説明は教科書的には正確ですが、もう少し正直に言うと、200回以上のワークショップで観察してきたパターンとして、最も多い「戻り先」は共感フェーズです。 問題定義が甘いとき、プロトタイプがユーザーに刺さらないとき、その根本原因は9割方「共感が足りなかった」に行き着きます。
デザイン思考の知的基盤は、1969年の Herbert A. Simon の著書『The Sciences of the Artificial(システムの科学)』にまで遡ります。Simon は「デザインは既存の状況をより望ましい状況に変えるための行動の考案」と定義し、デザインを問題解決のプロセスとして捉える視座を示しました。
1991年にデザインコンサルタント会社 IDEO が設立され、David Kelley と Tom Kelley の兄弟、Tim Brown らのリーダーシップのもと、デザイン思考はビジネスイノベーションの実践手法として発展しました。IDEOのショッピングカート再デザインプロジェクトは、そのプロセスを世界に知らしめた象徴的な事例です。
2005年にはスタンフォード大学に Hasso Plattner Institute of Design(通称 d.school)が設立されました。d.school はデザイン思考を学際的な教育プログラムとして体系化し、世界中の大学・企業への普及に大きく貢献しました。
今日、デザイン思考は P&G、IBM、SAP、Apple、Google など世界の多くの企業で活用されています。IBM は2012年から「Enterprise Design Thinking」を全社的に導入し、1万人以上のデザイナーを擁する組織へと変革しました。
デザイン思考が特に効果を発揮するのは、以下のような場面です。
なお、デザイン思考には典型的な失敗パターンも存在します。詳しくはデザイン思考が失敗する5つのパターンをご覧ください。また、リーンスタートアップとの使い分けについては2つの手法の比較が参考になります。
デザイン思考は、人間のニーズを深く理解することから始まる問題解決の方法論です。5つのフェーズを反復的に進めることで、イノベーティブで実用的な解決策を生み出すことができます。