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ペルソナが引き出しの奥で眠る理由 — デザイン思考で「使われるペルソナ」を作る5つの設計

苦労して作ったペルソナが、完成した翌週には誰も開かなくなる。その原因を、作り方ではなく使い方の設計から5つに分けて整理し、意思決定の場面で参照され続けるペルソナの条件を実践手順で解説する。

9分で読める

共感フェーズの成果物として、ペルソナを作ったことのあるチームは多い。名前があり、顔写真があり、年齢、職業、趣味、悩みが1枚に整っている。ワークショップの最後にA3で出力して壁に貼り、全員で「いいですね」と言い合う。

問題は、その2週間後に起こる。仕様会議でも、デザインレビューでも、誰もそのペルソナの名前を口にしない。ペルソナは作ることより、使われ続けることのほうがずっと難しい。

使われなくなる原因は作り方より使い方の設計にあり、5つに分けて手当てを示せる。ペルソナの基本は用語解説:ペルソナにまとめてあるので、先にそちらを読んでおくと流れがつかみやすい。


ペルソナが使われなくなる5つの原因

原因1:決める場面と結びついていない

ペルソナの用途が「ユーザーを理解するため」になっていると、使う場面が定まらない。理解は目的ではなく前提で、いつ誰が参照するのかが決まっていないペルソナは、どの会議でも出番がない。

手当て:先に、ペルソナで決めたいことを3つ書く。 たとえば次のような形だ。

  • 初回起動時の画面で、説明を出すか出さないか
  • 通知の頻度を、既定で週何回にするか
  • 価格ページで、最初に見せる情報は何か

この3つに答えを出せないペルソナは、作り直す価値がある。ペルソナは人物紹介ではなく、意思決定の場面で判断が割れたときの参照先として設計する。

原因2:属性は詳しいが、状況が書かれていない

よくあるペルソナは、「35歳・女性・都内在住・既婚・年収600万円」のように、属性が丁寧に書かれている。ところが、属性が同じ人でも、振る舞いは状況で大きく変わる。通勤電車で片手が塞がっているときと、自宅のソファで夜に使うときでは、同じ人でも求めるものが違う。

POV文のガイドでも触れたとおり、ユーザーの記述には属性だけでなく文脈と状況が要る。ペルソナも同じで、属性の欄を減らし、「どんな場面で・何をしようとして・何に困るか」の欄を増やすと、判断の材料になる。

原因3:観察ではなく、会議室の想像から作られている

データの裏づけがないペルソナは、作った人の理想や思い込みが投影される。しかも一度完成すると、本人たちも「それらしく」見えてしまう。

顧客理解の錯覚で扱った問題がここでも起きる。インタビューや行動観察から出てきた事実と、チームが補った推測を、ペルソナの中で区別して書いておくことが最低限の手当てになる。

具体的には、各項目の横に根拠を添える。

記述根拠
朝は子どもの準備で手が空かないインタビュー4件中3件で同じ発言
比較サイトで必ず3社を見比べる行動観察2件のみ(要追加確認)
価格に敏感である根拠なし(チームの推測)

3行目のような項目は、残してもよいが、推測であることを明示する。根拠の欄が空のまま壁に貼られると、推測が事実として一人歩きする。

原因4:1人に絞れず、全員を詰め込んでいる

関係者が多いプロジェクトでは、各部署の要望を取り込んだ結果、「何でもやりたい人」「何にでも敏感な人」ができあがる。こうなったペルソナは、どんな判断にも「この人ならそう言うかも」と言えてしまい、判断の道具としては何も決めてくれない。

手当て:主ペルソナを1人だけ決める。 副ペルソナを置く場合も、「主ペルソナのために決めたことで、副ペルソナが困らないか」を確認する側に置き、主役にはしない。誰を主役にするかが決まっていなかったら、それがその週に決めるべき課題だ。

原因5:作ったあとに更新されない

ペルソナはリサーチの時点の写真にすぎない。プロダクトが変わり、ユーザーの層が変わっても、壁のペルソナは当時のままだ。実態とずれたペルソナは、使えば使うほど判断を誤らせる。

手当て:ペルソナに「次に確かめること」の欄を作る。 根拠が薄い項目や推測の項目を並べておき、次のインタビューの質問に直接つなげる。更新の担当者と日付も、ペルソナの末尾に書く。


使われるペルソナを作る手順

5つの原因への手当てを、そのまま作業の順番にすると次のようになる。

  1. 決めたいことを3つ書く(原因1)
  2. リサーチの生データから、行動と発言を拾う(原因3)
  3. その行動が起きた場面を、1行ずつ添える(原因2)
  4. 主ペルソナを1人に決める(原因4)
  5. 根拠の薄い項目に印をつけ、次に確かめる質問を書く(原因3・5)

作業の時間配分の目安は、ワークショップ形式なら2時間程度。ただし2の「生データから拾う」作業は、インタビューの件数に比例して長くなる。前のフェーズで集めた材料を共感フェーズの手順で整理済みであれば、このステップはかなり短くできる。


ペルソナを会議に出す3つの小技

作ったあとに使われるかどうかは、会議の運営で決まる部分も大きい。

小技1:議事録の書式に「ペルソナ視点の確認」の1行を入れる。 仕様を決める会議で、決定事項の下に「主ペルソナはこれを選ぶか? 根拠は?」と書く欄を設ける。欄があれば、誰かが埋めようとする。

小技2:レビュー資料の冒頭に、ペルソナの「今日の場面」を1行書く。 たとえば「朝7時40分、子どもの靴を探しながら、片手で予約を確認する」のように、その日のレビュー対象に合った場面だけを抜き出す。ペルソナ全体を毎回載せる必要はない。

小技3:「このペルソナなら、この画面でどこを見るか」を声に出して言う習慣をつくる。 画面のスクリーンショットを前に、主ペルソナの視線で順に追ってみる。誰か1人が言うと、他の人も続く。


ペルソナを作らない、という選択もある

ここまでの話と矛盾するようだが、ペルソナを作らずに済むプロジェクトもある。対象ユーザーが少数で、全員にインタビューできる場合や、ユーザー本人がチームに参加している場合は、実在の人物そのものを参照するほうが強い。ペルソナは、実在の人物を直接参照できないチームが、ユーザーの像を共有するための道具だ。

また、行動の理由を1つのシナリオで説明したいだけなら、カスタマージャーニーマップのほうが向いている場合がある。道具に目的を合わせるのではなく、目的に道具を合わせる。


やってみよう:既存のペルソナを30分で点検する

すでにペルソナがある場合は、新しく作る前に点検してみよう。

ステップ1(5分): 手元のペルソナを見て、「このペルソナで決めた判断」を最近のものから3つ挙げる。1つも挙がらなければ、原因1の状態にある。

ステップ2(10分): ペルソナの各項目に、根拠の出所を書き込む。出所の書けない項目に印をつける。

ステップ3(10分): 印のついた項目を確かめるための質問を、インタビューの形に直して書く。

ステップ4(5分): 次の仕様会議で、ペルソナに確認したい決定を1つ選ぶ。

30分で終わる作業だが、ペルソナが机上の資料から判断の道具に変わるきっかけになる。


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