公共部門デザイン思考の組織モデル——18F閉鎖・MindLab閉鎖・Policy Lab継続から学ぶこと
米国18F(2025年2月閉鎖)、デンマークMindLab(2018年閉鎖)、英国Policy Lab(継続)、デジタル庁(発足)。公共部門のデザイン思考組織が「設立→運営→閉鎖/存続」を分かつ要因を、4機関の興亡から構造的に読み解く。
米国18F(2025年2月閉鎖)、デンマークMindLab(2018年閉鎖)、英国Policy Lab(継続)、デジタル庁(発足)。公共部門のデザイン思考組織が「設立→運営→閉鎖/存続」を分かつ要因を、4機関の興亡から構造的に読み解く。
公共部門のデザイン思考組織は、設立されては閉じる。世界で最も体系的に運営されていた組織の一つ、米国18Fは2025年2月28日に閉鎖された。デンマークMindLabは2018年5月に16年の歴史を閉じた。一方、英国Policy Labは2020年に管轄省庁を変えながらも10年以上継続している。日本のデジタル庁は2021年9月に発足したばかりだ。
「なぜある組織は閉じ、ある組織は続くのか。」 この問いは、公共部門でデザイン思考を機能させようとする者にとって最も実践的な問いである。本稿は4機関の組織モデルを並列に分析し、生存と閉鎖を分けた構造的要因を抽出する。
18Fは2014年3月、米国一般調達局(GSA)内の組織として設立された。名称は、GSAのワシントンD.C.本部の住所「18th and F Streets NW」に由来する。
設立の直接的な契機は、2013年10月のHealthcare.gov(医療保険交換所サービス)の機能不全だった。数億ドルを投じたシステムが、開設初日からユーザーがログインすらできない状態に陥った。この失敗の原因として分析されたのが、民間で標準化されていたユーザー中心設計の手法が政府の調達プロセスから完全に欠落していたことだった。
18Fの設立趣旨は明確だった。シリコンバレーのテクノロジー企業からエンジニア・デザイナー・プロダクトマネージャーを政府の内製人材として雇用し、各省庁のデジタルサービス再設計を支援する。つまり政府内部にデザイン思考の実行能力を埋め込むという構造だった。
設立から10年間、18Fは複数の象徴的なプロジェクトを担った。なかでも国税庁(IRS)の Direct File プログラム(納税者が無料で直接電子申告できるサービス)の立ち上げ支援は、その代表例である。従来は民間税務ソフトを介さなければ電子申告できなかった構造を、ユーザーリサーチに基づいて再設計した。
ほかにも、調達プロセスのモダン化、複数省庁のサービスデザインガイド整備、オープンソース基盤の構築など、18Fは「政府内コンサルティングユニット」として横断的に機能した。
しかし2025年2月28日、GSAは18Fの閉鎖を発表した。約85名の職員全員が解雇された。閉鎖は金曜深夜のメール通知のみで行われ、詳細な説明はなかった。
GSA調達サービス局長の説明によれば「政権の労働力最適化命令に沿って、非必須コンサルティング機能を削減する一環」とされた。元職員80名は連邦人事保護委員会に集団控訴を提出し、「不当な対象化」を主張している。
18Fの組織モデルには2つの致命的な脆弱性があった。
第一に、政治的中立性のための独立組織でありながら、行政府(大統領府)の意向に直接左右される位置にあったことだ。議会の承認を経た恒久組織ではなく、行政命令ベースで設立された組織だったため、政権交代と政策方針の変更で簡単に閉鎖できる構造だった。
第二に、「コンサルティングユニット」としての位置づけが、平時には正当化されにくかったことだ。Healthcare.govのような危機時には不可欠とされたが、危機が遠ざかると「内製化された外注」として削減対象になった。
MindLabは2002年、デンマークの経済省・労働省・教育省が共同出資する形で設立された、世界初の政府公認デザイン思考ユニットの一つである。失業給付申請プロセスのワンストップ化、教育サービスの再設計、起業支援プロセスの簡素化など、複数の省庁横断プロジェクトを主導した。
しかし2018年5月1日、MindLabは閉鎖された。閉鎖の直接要因は、デンマーク政府の優先順位が「実験と革新」から「行政のデジタルトランスフォーメーション」へとシフトしたことだった。後継として設立されたのが Disruption Task Force(破壊的革新タスクフォース)で、デザイン思考のワークショップ手法より、技術ベースの行政改革に重点を置いた。
MindLabは18Fよりも長く存続したが、共通する脆弱性を持っていた。
第一に、複数省庁の共同出資という「主体不在」のガバナンス構造である。経済省・労働省・教育省のいずれが「自分たちの組織」と認識するかは時期によって変動し、強い擁護者が政権内に常時存在しない構造だった。
第二に、成果の可視化が困難だった。デザイン思考の効果は「申請者の体験改善」「満足度向上」など定性的指標で測られることが多く、コスト削減や処理件数のような定量指標を求める政策担当者から見ると「具体的に何を生んでいるか」が見えにくかった。
UK Policy Labは2014年、英国Cabinet Office内に設立された。MindLabや18Fと同時期の発足である。設立趣旨は「エビデンス・デザイン・人々の声を政策立案に持ち込む」ことだった。
注目すべきは、Policy Labが2020年にCabinet OfficeからDepartment for Education(教育省)へ移管されたことだ。所属省庁を変えながら組織として存続するという、18FやMindLabとは異なる進化経路を辿った。2024年7月には設立10周年を迎え、新たな運営方針(prospectus)を発表している。
なぜPolicy Labは閉鎖されず、移管によって生き延びたのか。3つの構造的要因が観察できる。
第一に、「政策デザインの方法論」を組織のコアに据えたことだ。プロジェクト実行よりも「他省庁が政策をデザインするための手法」を提供することを軸にしたため、いずれの省庁にとっても汎用的な価値を提供できた。
第二に、実績を「公開可能なケーススタディ」として継続的に蓄積したことだ。Policy Labの公式ブログ(openpolicy.blog.gov.uk)には、各プロジェクトの手法・観察・成果が公開されている。これにより組織の正当性が文書として外部に蓄積され、政権交代があっても「閉鎖の社会的コスト」が高まる構造を作った。
第三に、省庁内の階層を低くし、政治任用ポストを増やさなかったことだ。少人数のコアチームと外部パートナーによる柔軟な運営構造を保ったため、「縮小は容易だが完全閉鎖は難しい」サイズを維持した。
デジタル庁は2021年9月、菅内閣のもとで発足した。マイナンバー普及・行政手続きオンライン化・自治体システム標準化という複合的なミッションを担う。
初期段階から外部のUXデザイナー・リサーチャー・エンジニアを積極採用し、「ユーザー中心設計原則」(2022年公表)を行政サービス設計の基準として位置付けた。これは英国GDS(Government Digital Service)の「Design Principles」を参考にした構造である。
デジタル庁は18Fやデジタル庁の前身組織群と比較して、省庁ではなく省庁横断の調整機能として位置づけられた点が特徴である。各省庁のシステム調達基準を作る権限を持ち、単なる「内製コンサル」ではなくガバナンスの中心として設計された。
これは18Fの脆弱性(内製コンサルとしての位置づけが平時に削減対象になる)を構造的に回避する設計と読める。一方で、ガバナンス機能を持つことは政治的注目度を高め、批判の集中砲火を受けやすい構造でもある。
| 機関 | 設立 | 閉鎖/継続 | 期間 | 主な脆弱性/強み |
|---|---|---|---|---|
| MindLab(丹) | 2002 | 2018閉鎖 | 16年 | 複数省庁出資=主体不在/成果可視化困難 |
| 18F(米) | 2014 | 2025閉鎖 | 11年 | 行政命令ベース設立=政権交代で閉鎖容易 |
| Policy Lab(英) | 2014 | 継続中 | 11年+ | 省庁移管で生存/方法論の汎用化/実績の公開蓄積 |
| デジタル庁(日) | 2021 | 発足期 | 4年 | 省庁横断ガバナンス権限を持つ |
この比較から、公共部門デザイン思考組織の生存要因として4つの構造が読み取れる。
1. 法的根拠の強さ——行政命令ベース(18F)よりも法定設置(デジタル庁)、共同出資(MindLab)よりも単一管轄(Policy Lab移管後)が強い。
2. 価値の汎用化——特定プロジェクトの実行(18Fの一部機能)よりも、他組織が使える方法論の提供(Policy Lab)の方が継続性を保ちやすい。
3. 成果の文書化と公開——内部報告で完結させず、外部公開されるケーススタディとして蓄積することが、閉鎖の社会的コストを高める。
4. 適切なサイズ——大規模組織は政治的標的になりやすく、極小規模は影響力が出ない。Policy Labのようなコアチーム+外部パートナー型が長期生存に有利な可能性がある。
公共部門にデザイン思考を持ち込むとき、最初の関心は「どう導入するか」だが、より重要な問いは「どう続くか」だ。設立は意気込みで可能だが、継続は構造で決まる。
18Fの閉鎖は、政治変動に対する脆弱性の象徴である。MindLabの閉鎖は、優先順位の変動に対する脆弱性の象徴である。一方、Policy Labの継続は省庁移管という柔軟性、方法論の汎用化、実績の公開蓄積の3つが組み合わさった結果と読める。
日本のデジタル庁は発足期にあり、これからその構造的強度が試される。法定設置・省庁横断ガバナンス・「ユーザー中心設計原則」の公開という3点で、18FやMindLabが持っていなかった強みを内蔵している。一方、政治的注目度の高さは両刃の剣である。
公共部門でデザイン思考を機能させたいなら、ワークショップの設計より先に、組織が10年・20年残るための構造設計を考えるべきだ。それが、閉鎖された18FとMindLabが私たちに残した教訓である。
関連記事として、行政サービスにおけるデザイン思考の活用事例では、各機関のプロジェクトレベルの成果に焦点を当てている。本稿と併せて読むと、プロジェクト視点と組織視点の両面から公共部門デザイン思考の全体像が見える。